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キース・ヘリングの死因
~なぜ31歳の若さで亡くなったのか

キース・へリング「Pop Shop III」

ポップアートの神様といえばアンディ・ウォーホルですが、作品を見るとウォーホルよりもずっとポップでキャッチーに感じられるのがキース・ヘリングです。
キース・ヘリングは、バンクシーなど今をときめくストリートアートの先駆者としても知られ、ニューヨークの地下鉄の空いている広告掲示板に勝手に絵を描くサブウェイドローイングで有名になりました。もちろん犯罪なので20回以上も逮捕されています。
カウズのようなアートのグッズ化もキース・ヘリングに始まりました。アート作品の値段が高すぎると考えたキースは、誰でも廉価でアートを所有できるようにと、自らのグッズを販売するポップショップを開店しました。
1980年代に絶大な人気を誇ったキース・ヘリングが今の世の人にあまり知られていないのは、1990年にわずか31歳で亡くなったからでしょう。
キース・ヘリングの死因は、当時世界中で流行したあの病気でした。

不治の病として恐れられたエイズ

ジョン・グルーエン
『キース・ヘリング』リブロポート
(キース・ヘリングの伝記)

キース・ヘリングの命を奪ったのはヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus)、略してHIVです。
HIVは、体内に侵入したウイルスを退治する免疫細胞を破壊する性質を持っています。そのためヒトの免疫機能でHIVを退治することが難しく、一度感染すると治癒できない病として恐れられました。
HIVに感染したヒトは、免疫機能が効かなくなり、最終的にさまざまな合併症におかされる後天性免疫不全症候群(Acquired immune deficiency syndrome)、略してAIDS(エイズ)を発症します。
HIVやAIDSに対しては1990年代半ばまで有効な治療法が存在せず、死に至る病だと言われていました。2022年現在はHIVを減らしてAIDSの発症を抑える治療法が存在していますが、それでも生涯服薬を続ける必要のある感染症となっています。
今でこそ短期間で死ぬような病ではなくなりましたが、キース・ヘリングが亡くなった1990年頃には、AIDSは発症すれば余命数年と言われていたのです。
AIDSがどれほど世界を恐怖に陥れたかといえば、AIDSをテーマに作られた数々の映画作品の数を見ればわかることでしょう。
1993年の『運命の瞬間/そしてエイズは蔓延した』をはじめ、第66回アカデミー賞受賞の『フィラデルフィア』、第79回アカデミー賞受賞の『中国 エイズ孤児の村』、第86回アカデミー賞受賞の『ダラス・バイヤーズクラブ』など、枚挙にいとまがありません。
新型コロナウイルスと同じように、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)も確実に社会を変えたウイルスとして記憶されています。

なぜAIDS患者は差別されたのか?

HIVは、新型コロナウイルスとは異なり、パンデミック(世界的大流行)を引き起こしませんでした。なぜならば、HIVは非常に感染力の弱いウイルスだからです。たとえば同居している家族にHIV感染者がいて、食事や入浴などの日常生活を一緒におくっていても、まず感染の心配はありません。HIVは空気中や水中ではすぐに死滅してしまうからです。その感染力はB型肝炎ウイルスの100分の1程度と言われています。
では、HIVはどのような経路で感染を拡大するのでしょうか。
最も多いのが、性行為による感染です。分泌液と粘膜が接触すると、1%以下の確率で感染が起こります。「セーフ・セックス」が叫ばれ、性行為においてコンドームの使用が積極的に推奨されるようになったのは、AIDSが流行した80年代以降の話です。このあたり、Covid-19でマスクをつける人が多くなった現状にも似ています。
次に母子感染です。母親がHIVに感染している場合、出産時の出血や母乳を通して子どもに感染します。また、病院での輸血によってAIDSに感染した人も多く出て社会問題になりました。
そして麻薬常習者などが注射器の針を使いまわすことによる感染もありました。つばをはきかけられるくらいでは感染しないHIVも、さすがに注射器の針を共有するとうつります。
さらにAIDSが「悪魔の病気」として恐れられるようになったのは、AIDSが顕在化した1980年代のアメリカで、その感染者に男性の同性愛者(ゲイ)が目立ったことです。
肛門性交は粘膜が傷つきやすいために感染確率が高いと言われますし、たまたまHIVに感染した同性愛者が不特定多数と性行為を繰り返して感染を拡大させたこともあり、AIDSに対する恐怖感は、同性愛者への嫌悪と差別に容易に転換しました。
ゲイであったキース・ヘリングもその波から逃れられませんでした。

『キース・ヘリング~ストリート・アート・ボーイ~』予告編


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AIDSと闘ったキース・ヘリング

Paul Welterlen
『It’s Time To Say I Care』
Pinball Records(1989)

キース・ヘリングはその伝記において、次のように語っています。
「1982年ころからすでに、ゲイの男たちが主にニューヨークとサンフランシスコで、不可思議な死に方をしているという噂が耳に入るようになってきた。<ゲイの癌>と呼ばれていた。知り合いのなかで初めてエイズが原因で死んだのはクラウス・ノミだった。」
1983年に亡くなった歌手のクラウス・ノミをはじめとして、多くの芸術家がAIDSによって命を落としました。
1987年には「世界が恋したピアニスト」と呼ばれたリベラーチェ、1988年にはキース・ヘリングがレコードジャケットをデザインした歌手のシルヴェスター、1989年には写真家のロバート・メイプルソープ、そして1990年にはキース・ヘリング本人が亡くなります。
その後も、1991年にロックバンド、クイーンの歌手のフレディ・マーキュリー、1992年には映画『サイコ』の主演俳優アンソニー・パーキンス、1993年にはバレエダンサーのルドルフ・ヌレエフ、1994年には映画監督のデレク・ジャーマン、1995年には日本の現代美術家、ダムタイプの古橋悌二、1996年にはキャンディーのインスタレーションで有名な現代美術家のフェリックス・ゴンザレス=トレス……いずれもゲイのアーティストでした。
再び、キース・ヘリングの伝記からその言葉を引用します。
「1988年の初めに前の恋人のホアン・デュボーズが結核にかかって、それがエイズに関係したものらしいとわかったとき、ぼくもいずれ発病するだろうということがはっきりとした。」
数か月後に、キースにも病変が出始めます。血液検査の結果はAIDSでした。
「その時点では、エイズに感染したという目に見える兆候は紫の斑点だけだった。ぼくの身体に現れた病変はそれだけだった。ただそれがどんどんどんどん増え続けた。」
1989年、キースは「ローリング・ストーン」誌のインタビューでエイズと闘っていることを公表し、AIDS患者に対する支援を始めます。
たとえばAIDS感染者として積極的に社会にメッセージを発信したり、コンドームを使用する「セーフ・セックス」のポスターを作成したり、AIDS予防啓発のチャリティーイベントのレコードジャケットデザインを手掛けたりしています。
もともとキース・ヘリングは、核廃絶を訴えるなど社会活動家の側面も持ち合わせていましたが、死を目前にその傾向が強まりました。
キース・ヘリングは1990年に亡くなりましたが、遺産を管理するキース・ヘリング財団はその後もLGBTQやエイズ患者に対する支援を続けています。
AIDSもゲイだけの感染症ではないことが徐々に理解されるようになりました。
SF作家のアイザック・アシモフは、手術の際の輸血血液に混入していたHIVによってAIDSを発症し、1992年に亡くなりました。NBAの伝説的スターだったマジック・ジョンソンは不特定多数の異性との性行為によってHIVに感染して、1991年に33歳での引退を余儀なくされました。
自らの性的指向やドラッグ使用やAIDS感染を公表し、入院もせずに最期まで自由に生きたキース・ヘリングの生涯は、今も多くのマイノリティを勇気づけています。

参考文献
ジョン・グルーエン『キース・ヘリング』リブロポート
中村キース・ヘリング美術館監修『キース・ヘリング』美術出版社

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