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『北日本新聞』に掲載

 

画家の人生を反映

 セザンヌ、モネ、ルノワールやゴッホ、ピカソ、シャガールら近代美術の巨匠たちの絵の値段について考えたことはあるだろうか。彼らの絵には何億円という値段がつくが、ゴッホは生前1枚しか絵が売れなかったとか、バブル期には日本人がオークションで多くの絵を買ったということ以上はあまり知られてない。
 東京・京橋の画廊でフランス近代絵画を扱う著者が画家たちの人生を作品の値段という切り口でたどる。19世紀から20世紀前半にかけては絵具や技法の革命で印象派や野獣派、立体派など新しい潮流が誕生した。当時は絵画芸術の絶頂期とされ、作品も高額で取引されるが、同じ画家でも作品によって価格が違う。
 モネの傑作「積み藁」連作の中の1枚は発表当初は前衛的過ぎて批判されたが、最近のオークションで89億円という高値をつけた。一方、同じ年代の「ジュアン湾」は2015年時点で1億6000万円。最高傑作と普通の作品の差だが、価格の違いはこのように画家の人生やキャリアの起伏と重なる。
 バブル期に日本企業が購入したことで有名なゴッホの「ひまわり」は当時58億円。後に別の日本人が「医者ガシェの肖像」を125億円で落札した。精神を病んだ折、頼りにしていた主治医を描いた作品で、その1カ月後にピストル自殺したゴッホの最後の傑作だ。
 15年に215送苑で落札されたピカソ作「アルジェの女たち」が美術品の競売では最高価格とされるが、そのピカソでも同じ絵柄が複数ある版画や晩年の作品などは入手しやすい値段がつく。作品の絶対数が少ない方が希少価値が高まると思いがちだが、長生きで1万枚以上の絵を描いた彼の場合、むしろ多数の絵が人目に触れ、有力なオークションで取引されることで価値が上がっている。
 著者は価格という視点で絵画史をひもときながらも、美術の真の価値は画家が託したメッセージの素晴らしさにあると強調する。その上で価格に現れる画家の人生にも思いをはせると絵画鑑賞の楽しみが増しそうだ。

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