2010年代の仕事で目立つのは、シンガーソングライターの八田ケンヂのジャケットです。
八田ケンヂは、KENZI名義でパンクロックを歌う歌手として80年代からインディーズで活動してきましたが、2009年からは八田ケンヂに改名して弾き語りも行うようになりました。奈良美智は近年の2枚のアルバムのアートワークを担当しています。

奈良美智といえばすぐに女の子の絵がイメージされるように、初期の少年ナイフから、ガールズバンドとのかかわりは深いです。
日本のガールズバンド、ミチノヒとnoodlesの2組も、近年のアルバム・ジャケットに奈良美智を選びました。
同じガールズバンドといっても、その音楽性はまったく異なります。
ミチノヒは札幌出身の2人を中心とするギター、ドラム、キーボードの3ピースバンド。イギリスのインディーズを彷彿とさせるポップソングを奏でます。
一方、noodlesは横浜出身で、英語で歌うオルタナティブ系ロックバンドです。もともとは4人編成でしたが、18年の活動の間に2人が脱退して、ギターとベースの2人組になりました。

レコードやCDのジャケットではありませんが、ロックミュージシャン浅井健一の曲の歌詞に奈良美智が絵を描いた異色のコラボレーション絵本があります。
絵本のタイトルは『ベイビーレボリューション』。浅井健一が自身のバンドSHERBETSのために2005年に書いた楽曲「Baby Revolution」の歌詞と奈良美智の描きおろしの絵で構成されています。
浅井健一は、90年代の伝説的なロックバンドBLANKEY JET CITYのボーカリストです。これまでCDのジャケット等で奈良美智と共演することはなかったのですが、クレヨンハウスの企画絵本でコラボレーションが実現しました。
また、奈良美智の絵本に興味がある方には、その20年前にマガジンハウスが企画した絵本『ともだちがほしかったこいぬ』もおすすめです。 こちらは、奈良美智が絵と文の両方を一人で担当しています。1999年前後は日本で奈良美智の人気が絶大で、画集やポストカード集などさまざまな書籍が立て続けに出版されました。

最後に、2020年10月にリリースされた新しいレコードジャケットを紹介します。
1984年に結成されて活動歴が36年になるアメリカのオルタナティブ・ロック・バンドのヨ・ラ・テンゴによる最新EP『Sleepless Night』です。
このアルバムの制作は、ロサンゼルスのカウンティ美術館で行われた奈良美智の展示会の限定カタログの付録LPに、ヨ・ラ・テンゴが曲を提供したことから始まりました。
カタログのLPでは、片面にヨ・ラ・テンゴが演奏した6曲、もう片面に奈良美智の好きな6曲が収録されていましたが、ヨ・ラ・テンゴの演奏した6曲だけが、新たに限定盤EPとして発売されることになりました。
ちなみにLPはLong Playの略称でいわゆるアルバム盤を指し、EPはExtended Playの略でシングル盤よりは長い（Extended）けれどもアルバム盤には及ばない、中間の長さのレコードの呼称です。
『Sleepless Night』は6曲のみ収録のEPで、レコードの裏側にはバンドメンバーによるイラストがエッチングされています。
アナログレコードのみでリリースされるこのEPは2500枚限定生産となりましたが、人気が出たので後にCD化もされています。