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写真によるアート・ジャケット~その1~

写真が発明されたとき、画家は現実を写し取るその精密さに驚き、強力な商売敵が現れたとおののきました。
実際、写真の登場によって、それまで画家の飯の種だった肖像画や風景画の需要は大きく損なわれました。 写真に押されて、画家は、実用としての絵画から芸術としての絵画に大きく舵を切り、以降の絵画は唯一無二のクリエイティブな表現として人気を高めていきました。
一方、レンズに写った像をそのまま二次元に焼き付けることしかできない写真は、いくらでも複製ができる実用品として、その価値が抑えられてきました。
しかし、最近は写真もまた芸術であるとの考え方が強くなっています。
レコードのジャケット・アートに使われた写真から、その芸術性を探ってみましょう。

 

 

アーティスト写真という表現

20世紀の芸術写真家として最も有名なのは、エコール・ド・パリの時代にモデルのキキと恋仲になってその姿を多数写真に収め、ピカソやミロとともに第1回シュルレアリスム展にも参加したアメリカ人写真家マン・レイでしょうか。
それとも官能的なヌード写真で知られ、その写真集が日本の税関で「わいせつ図画」として没収されたことで、出版社が政府を相手に裁判で争ったことが話題になった、アメリカの写真家ロバート・メイプルソープでしょうか。
ゲイであり、若干42歳にしてエイズで亡くなったメイプルソープですが、若い頃には女性と同棲もしていました。その相手が「ニューヨーク・パンクの女王」と呼ばれたパティ・スミスです。
1975年の、パティ・スミスの有名なデビュー・アルバム『ホーセス』のジャケット写真は、ロバート・メイプルソープによるものです。彼女の中性的な魅力が、メイプルソープのモノクロ写真で見事に表現されています。
同棲解消後も二人の友情は終生続き、メイプルソープは13年後のパティ・スミスの5枚目のアルバム『ドリーム・オブ・ライフ』のジャケット写真も手掛けています。
アルバムがリリースされたのは、ロバート・メイプルソープが亡くなる9カ月前の1988年7月でした。
後にパティ・スミスは、メイプルソープに捧げる歌「Memorial Song」を作って、ライヴで披露しています。

 

Patti Smith『Horses』1975年(ロバート・メイプルソープ)

 

Patti Smith『Dream of Life』1988年(ロバート・メイプルソープ)

 

 

John Lennon『imagine』1971年(オノ・ヨーコ)

同じ被写体でも撮る人によってまったく違う

商業写真家でもあったマン・レイやロバート・メイプルソープとは異なり、純粋な芸術家がジャケット写真を撮った例もあります。
1971年の、ジョン・レノンの2枚目のソロ・アルバム『イマジン』のジャケット写真は、妻である現代アーティストのオノ・ヨーコが撮影しました。
あえて鮮明に撮らずぼかした写真にあどけない表情のジョン・レノンは、それまでのロックスターのイメージを覆すものでした。
ちなみに、ジョン・レノンは若い頃に美術専門学校のリヴァプール・カレッジ・オブ・アートで学んでいて、オノ・ヨーコともアートに対する感性が一致していました。


同じジョン・レノンのアルバム・ジャケットでも、商業写真家の篠山紀信が撮影すると、もっとわかりやすく、テーマのはっきりしたものになります。
1980年のアルバム『ダブル・ファンタジー』は、ジョン・レノンとオノ・ヨーコとの合作になり、二人の楽曲が交互に収録されています。
表紙もジョンとヨーコの二人の写真になり、撮影は日本を代表する写真家の篠山紀信が担当しました。
ジャケットはモノクロですが、撮影したフィルムはカラーで、編集段階でモノクロに加工されたそうです。
このアルバムは、二人の間に生まれた息子ショーン・レノンの育児のために音楽活動を休業していたジョン・レノンが、5年ぶりに発表した復帰作でした。
しかしアルバムの発売直後、ジョンは一般男性に撃たれて、帰らぬ人となりました。
ジョンの遺作は、4年後にアルバム『ミルク・アンド・ハニー』にまとめられました。
こちらのアルバム・ジャケットに使用された写真は『ダブル・ファンタジー』のためのフォト・セッションで篠山紀信が撮影したものの別テイクです。
ちなみに2020年10月9日からジョンとヨーコの軌跡を辿る展覧会「ダブル・ファンタジー ジョン&ヨーコ」展がソニーミュージック六本木ミュージアムで開催されます。チケットは8月29日から発売になっているので是非どうぞ。

 

John Lennon with Yoko Ono『Double Fantasy』1980年(篠山紀信)

 

John Lennon with Yoko Ono『Milk and Honey』1984年(篠山紀信)

 

 

日本人写真家の活躍

日本を代表する写真家といえば、篠山紀信ともう一人、アラーキーこと荒木経惟の名前をあげる人が多いでしょう。
荒木経惟もまた、レコードのジャケット・アートを手掛けています。
アイスランドの歌姫ビョークの1997年のコンピレーション・アルバム『テレグラム』です。
これはビョークが荒木経惟のファンであったことから実現したコラボレーションです。
ビョークは生粋のアイスランド人ですが、黒髪に黒目で東洋人的な見た目を持っていることから、日本文化にシンパシーを持っていると伝えられています。
同じ日本人写真家でも、現代アーティストの杉本博司がアート・ジャケットを手掛けると、まったく印象の異なるものができあがります。
アイルランドのロックバンド、U2のアルバム『No Line on the Horizon』のジャケット写真は、U2とは関係なく、杉本博司の作品以外のなにものでもありません。
それもそのはずで、このコラボレーションは、杉本博司の写真作品≪海景≫シリーズに惚れこんだU2のボーカリストのボノが、杉本博司本人に直接、作品をジャケットに使わせてほしいと頼み込んで実現したものだからです。
杉本博司は、写真を加工しないことを使用条件としました。そのため曲名もアーティスト名も入らないジャケットに仕上がりました(販売時にはケースにクレジットのシールが添付されたそうです)。
なお、杉本博司は、2020年7月31日から2021年1月3日まで森美術館が開催している「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」の6人に選ばれています。
草間彌生、李禹煥(リ・ウファン)、宮島達男、村上隆、奈良美智と並ぶ日本の現代アートのスターは、世界を代表するミュージシャンをも魅了したのです。


 

Bjork『Telegram』1997年(荒木経惟)

 

U2『No Line on the Horizon』2017年(杉本博司)

 

 

 

Debbie Harry『Rockbird』1986年
(アンディ・ウォーホルの絵を背景に使用)

こんなところにこっそりと

最後に、ちょっと特殊な事例をご紹介しましょう。
冒頭に紹介したパティ・スミスと同様、1970年代にニューヨーク・パンクとして活躍したバンドの一つにブロンディがあります。
ブロンディというバンド名は、ブロンドの女性ボーカリストのデボラ・ハリーからとられています。
マドンナが登場する前のセックス・シンボルとして人気を集めたデボラ・ハリーは、1982年にバンドを解散後はソロ・アーティストとして活動しました。
デビー・ハリーの名義で出した2枚目のソロ・アルバム『ロックバード』は、彼女の顔写真が全面に配された、よくあるパターンのアルバム・ジャケットでした。
デザイナーもアートディレクターもカメラマンも現代アートの領域で活躍した人ではありません。
しかし、この写真の背景に使われているうねうねした絵の作者が、なんとあのアンディ・ウォーホルだったのです。
2020年は9月から「アンディ・ウォーホル・キョウト」と題された大規模な個展が京都市京セラ美術館で開催される予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期調整中となっています。
コロナウイルスについては世界各地で第二波が起きていて、とうとうパリでも屋外でのマスク着用が義務化されました。
日本でも早く流行が落ち着いて、アンディ・ウォーホル展が無事に開催されることを祈ります。


 

 

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