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ヨーロッパのストリートアート その2
~ヴィールスからドルクまで

二度の世界大戦が始まる以前、文化の中心はヨーロッパにありました。
中でも美術に関しては、フランスのパリがいちばんだと言われていました。
しかし、戦争で荒れ果てたヨーロッパは文化を育てる余裕を失い、芸術の中心地はアメリカのニューヨークに移ってしまいます。
それから80年近くが経った現在、長い歴史と伝統を持つヨーロッパのアートが、再び息を吹き返してきているように見えます。
現代アートの分野ではイギリスのバンクシーが常に話題をさらい続けていますし、街中のストリートアートは観光スポットとして大事にされています。
また、イギリスのミュージアムは大英博物館をはじめ、その多くが入場無料です。フランスも、オルセー美術館やオランジュリー美術館などが月一回の無料日を設けています。ヨーロッパには、芸術の振興は街づくりの一環で、公共の福祉だとの考え方があるからです。
そんなヨーロッパのストリートアーティストについて、前回はイギリスのほか、フランス、ベルギー、イタリアのラテン系3か国を紹介しました。
今回は、イベリア半島のスペイン、ポルトガル、そして北欧のアイルランドとノルウェーのストリートアーティストを見ていきましょう。

 

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スペインのフェリペ・パントン

スペインのバレンシアを拠点として活動するフェリペ・パントン(パントーネ)は、虹のような鮮やかな光を建物の外壁などに描く、新世代のストリートアーティストです。
コンピュータを使って3DCGなどの下絵を作り、それをスプレーやペンキなどで壁に再現していくフェリペ・パントンの手法は、まさにデジタルとアナログの融合です。
目にも眩しいその作品は世界中で高く評価されて、各国の展覧会に招待されています。
「光と色彩はビジュアルアートの本質です。テレビ、コンピュータ、そして現代の照明技術のおかげで、私たちの光と色彩の認識は完全に変わりました」と語る彼は、新しい時代の到来を感じさせるアーティストです。 アルゼンチン人とスペイン人のハーフであるフェリペ・パントンはグローバルな感覚を併せ持ち、1986年生まれという若さもあいまって、将来をおおいに嘱望されています。
クールなサイケデリックとでも形容できるフェリペ・パントンのユニークさは、単にストリートアーティストとしてだけではなく、現代アートとしての可能性も開きました。
その作品の多くは、バンクシー同様、本人のインスタグラムで見ることができます。

書籍『Felipe Pantone Dynamic Phenomena』 Drago Arts & Comm

 

 

ポルトガルのVHILS(ヴィールス)

VHILS(ヴィールス)の名前で活動するポルトガルのストリートアーティストは、建物の壁などに人の顔を大きく描く行為で知られています。
一見、普通の人の顔に見えるVHILSの作品ですが、近くに寄ってみると他のストリートアートとの違いがわかります。
なんと、VHILSの作品は絵ではなく彫刻なのです。壁に巨大な彫刻を作るため、VHILSはノミだけでなく、電動ドリルや火薬を用います。
そう聞くと、粗削りな仕上がりを想像してしまいますが、VHILSの作品は非常に写実的で、遠目からは写真のようにすら見えます。
火薬の爆発というキャッチーなオリジナリティを持つVHILSは、2000年代後半にバンクシーとともに注目され、バンクシーと同じエージェントと契約しました。
雑誌『TIMES』の表紙にも登場し、同じく顔をテーマにしているストリートアーティストであるフランスのJRともコラボレーションしたことがあります。
VHILSの本名はアレクサンドル・マヌエル・ディアス・ファルト。
ポルトガルに生まれて、ロンドンの美術学校でアートを学んだ1987年生まれの若者です。
現在はイギリスのロンドンとポルトガルのリスボンの二都市を拠点に製作を続けています。

書籍『VHILS』Gestalten

 

 

アイルランドのコナー・ハリントン

アイルランドのコーク出身のコナー・ハリントンは1980年生まれで、10代の頃からストリートアーティストとしての活動をはじめました。
当時のコナー・ハリントンはヒップホップカルチャーにはまり、スプレー缶をもって夜の街を徘徊していました。
その後、コナー・ハリントンは、美術学校に通って正式に油彩画を学びます。そしてハイパーリアリズムの手法で、古典的なテーマを描くようになります。
現代と過去を融合させたそのスタイルは美術業界の内外で高く評価されています。
日本でも人気のあるファッションデザイナーのポール・スミスも、コナー・ハリントンの作品に一目ぼれして購入し、ファンを公言しています。
コナー・ハリントンはキャンバスにも描きますし、ストリートの壁画も描きます。ですから、彼自身は自らをストリートアーティストともギャラリーアーティストとも定義せず、ただの画家と考えています。
しかし、ストリートアートという看板をなくしても、依然として彼の絵は魅力的です。

書籍『Conor Harrington: Watch Your Palace Fall』Heni Pub

 

ノルウェーのDOLK(ドルク)

ノルウェーのヴェルゲン出身のDOLK(ドルク)は1979年生まれで、ストリートアーティストとしての活動を始めたのは20代半ばからと、それほど早くありません。
もともとは工学を学ぶ学生だったのですが、オーストラリアに留学時にグラフィックデザインを学び、バンクシーに触発されてストリートアートを始めました。
ちなみに、ドルクとはノルウェー語で短剣を意味します。英語ならダガーです。
数多くのストリートアーティストと同様、逮捕されないように偽名を使っていますが、今では本名がアンドレアス・ハムラン・フェローであることがわかっています。
初期のドルクは、ステンシルの技法やブラックユーモアあふれる作風がバンクシーによく似ていたため、同一人物ではないかと疑われていました。
その後、チェ・ゲバラやチャールズ皇太子など、実在の人物を風刺するような作品が人気となり、バンクシーとは異なる道を歩みます。
近年のドルクは、ノルウェーで最も有名な現代アーティストとして、ノルウェー政府からも制作を依頼されるほどになりました。
ドルクのシルクスクリーン作品はすぐに売り切れてしまうため、プライマリー(直接販売)で入手することが困難です。たとえセカンダリー(二次市場)であっても、欲しいと思ったときに買うのが良いと思います。

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ヨーロッパのストリートアート その1 ~インベーダーからベン・アインまで


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