アートコラム

ストリートアートに影響を与えたウォーホル

2021/03/02

ダ・ヴィンチ≪モナリザ≫や、ムンク≪叫び≫のような有名絵画は、その作品の実物が鑑賞される以上に、その図像がイコンとして消費される傾向があります。
あまりにも有名な絵は、誰もが知っている先行作品として、パロディや引用の対象になるからです。
今回はアンディ・ウォーホルの有名な作品と、その作品が後続世代のアーティストによってどのように引用されたかをご紹介します。

 

アンディ・ウォーホルのスープ缶

ウォーホルといえば、ピカソやデュシャンなどと同様、美術の定義そのものを変えたアーティストの1人です。
その代表作の一つである「キャンベルのスープ缶」は、アメリカのスーパーマーケットに並んでいる食料品の一つであるキャンベル社のスープの缶詰を、あえてそのまま描いたものです。
美術とは特別な美を描くものと思われてきたのですが、それに反対するかのように大衆的な日用品を描いたウォーホルは、一躍ポップアーティストとして時代の寵児となりました。
ウォーホルによって発見された大衆文化の美によって、以降はデザインやイラストといったコマーシャルなアートにも脚光が当たるようになります。
ちなみにウォーホルがモチーフとしてキャンベル社の缶詰を取り上げたのは、子どもの頃から毎日のように食べていて馴染みがあったからです。
ウォーホルと食事を共にしたアシスタントの1人は、晩年になってもウォーホルはキャンベルのスープ缶を食べていたと証言しています。

 

ウォーホルのスープ缶のバリエーション

ウォーホル
≪Big Torn Campbell’s Soup Can
(Vegetable Beef)≫
1962年

「キャンベルのスープ缶」が受けたのを知ったウォーホルは、その後も続けてスープ缶シリーズの制作に着手します。
実はウォーホルのスープ缶には味の表記を変えたさまざまなバリエーションがあります。
実はキャンベルのスープ缶にはさまざまな味があり、最初に作られたウォーホルの作品も、トマト味やオニオン味やベジタブル味など、表記を変えただけで後はまったく同じ32種類のスープ缶を並べたものでした。
その後、ウォーホルは包装紙が破れたキャンベルのスープ缶シリーズを発表します。
当時の缶詰は、金属に直接印刷ではなく、紙に商品名をプリントして缶に貼りつけていました。紙の耐久性が低いため、その包装紙が破れてはがれそうになっているのも、ありふれた光景でした。
ウォーホルは徹底して日常生活における美にこだわったのです。

 

シェパード・フェアリーのスープ缶

シェパード・フェアリー
≪Obey’s Soup Can (All City Propaganda)≫
2005年

このウォーホルの≪大きく破れたキャンベルのスープ缶≫を引用して自分の作品を描いたのが、Obeyのニックネームで知られるアメリカのストリートアーティスト、シェパード・フェアリーです。
フェアリーは≪オベイのスープ缶≫と題して、ウォーホルの作品そっくりの缶を描き、「キャンベル」の文字を「オベイ」に、トマトやベジタブルなどの味の表記を「すべての都市のプロパガンダ」と政治的な文言に置き換えました。
プロパガンダとは、特定の思想などを宣伝する行動のことです。反ブッシュキャンペーンを行ったフェアリーにとっては、アートもプロパガンダの一つなのかもしれません。
構図はウォーホルのスープ缶を忠実に模倣しており、真ん中には有名なオベイ・ジャイアントのロゴマークも見えます。
この作品はシルクスクリーンで4つのカラー・バリエーションが作られました。

 

ミスター・ブレインウォッシュのスプレー缶

ミスター・ブレインウォッシュ
≪Campbell’s Soup≫
2009年

ウォーホルのスープ缶をさらにひねって作品化したのが、同じくアメリカのストリートアーティストであるミスター・ブレインウォッシュです。
ミスター・ブレインウォッシュはフランスのストリートアーティストのインベーダーの従兄弟で、アメリカに移住して古着屋をしていましたが、シェパード・フェアリーやバンクシーと親交を持ってアーティストに転向したそうです。
ミスター・ブレインウォッシュは、スープ缶を語感のよく似たスプレー缶に置き換えてパロディ化しました。
スプレー缶は、ストリートの壁に絵を描くときの材料としてよく使われるもので、ストリートアートの象徴です。
スープ缶をスプレー缶に変えたほかは、キャンベル社やトマト味の表記をそのまま残しているので、一目でウォーホルのスープ缶のパロディだとわかります。
2021年3月15日まで渋谷PARCO4FのPARCO MUSEUM TOKYOで、ミスター・ブレインウォッシュの日本初の大型個展「LIFE IS BEAUTIFUL」が開かれています。
バンクシーが監督した映画作品『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』では主役として描かれた気鋭の作家ミスター・ブレインウォッシュのアートを直に鑑賞できるチャンスです。

 

バンクシーのスープ缶

最後に紹介するのは、ミスター・ブレインウォッシュを有名にしたバンクシーによるスープ缶です。
バンクシーはウォーホルのスープ缶の形状だけを引用して、包装のデザインを大きく変えました。
なぜならば、キャンベルのスープ缶はアメリカでこそ有名ですが、バンクシーの故郷のイギリスでは大衆的な日用品になりえていないからです。
代わりにバンクシーは、イギリスで有名なスーパーマーケットTESCOのプライベートブランドvalueのスープ缶を描きました。味はもちろんトマト味です。
この作品は、2005年に警備員の目を盗んで、バンクシー自身の手によってニューヨーク近代美術館(MOMA)に勝手に展示されました。
しかし、あまりにも周囲に溶け込んでいたため観客にも警備員にもすぐには気づかれず、なんと6日間もそのまま展示されていたそうです。
この大胆不敵な行為は、美術館に展示される作品には本当にオーラがあるのかどうかを問いかけるものとして、世界中のニュースとなりました。
バンクシーの名を一躍高からしめた名作です。

 

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