あの2人の仲は友情か、それとも恋愛か?
2021/03/16
印象派の画家エドガー・ドガは、気難し屋で人付き合いが下手でしたが、親友ともいえる女性画家がいました。
10歳年下のアメリカ人メアリー・カサットです。
アメリカ人なのにフランスの印象派画家の一人として数えられるカサットは、明るく元気な男勝りの女性でした。
実は、ドガの母親は当時フランスの植民地だったアメリカのニューオーリンズ生まれのクレオール(現地人)です。
母の生まれ故郷であるアメリカから来た女性に、ドガはいったいどのような感情を抱いていたのでしょうか?
ドガとカサットの運命の出会い

カサットは画家修業をするためにわざわざフランスまで来た女性です。
当時の慣習に従って、最初は官展のサロン・ド・パリに出品していましたが、古臭いルールに縛られたサロンの絵には馴染めないものを感じていました。
そんなときに見かけたドガの絵が、彼女の人生を変えました。街の生活をそのまま活写したドガの絵は、カサットの求める新しさを持っていたのです。
その後、変化したカサットの絵をたまたま見つけたドガも、相手のことを何も知らないまま「私と同じ感性を持った画家がいる」と感じたそうです。
やがて運命の出会いを果たした二人は、サロンに対する批判と理想の芸術観で意気投合します。
そしてドガは第4回印象派展への出品をカサットにうながし、カサットも喜んで承諾しました。以後、カサットは二度とサロンに出品せず、権威ある賞の受賞も拒んで、ドガとともに印象派展への出品を続けました。
ドガが他の画家と喧嘩をして不参加だった第7回印象派展では、カサットもドガとともにボイコットをしています。

「自画像」1878年
ドガとカサットが似ているのは、芸術観と絵に対する取り組みだけではありません。
実はカサットもドガと同様、82年の生涯をずっと独身で通しました。
カサットの場合は、身体が弱いために独身を通した姉と、娘を追ってフランスに移住してきた両親の世話をしなければならなかったという理由もあります。
しかし、やはりドガと同様に、結婚よりも芸術を選んだ面が大きいでしょう。
無理に結婚するよりも、好きに絵を描いているほうが幸せだったのかもしれません。
ドガとカサットの間には何があったのか?

「子どもの入浴」1893年
ドガとカサットは、周囲も認めるほどの親友同士でした。
毎日のように会っている時期もありましたし、一緒に仕事をしたこともありました。
二人はお互いを認め合っていました。
当時の風潮に従って男尊女卑の気があったドガでしたが、カサットのことだけは「これほどデッサンの巧みな女性がいるとは思わなかった」と賞賛しています。
カサットもドガに対する賛美を惜しみませんでした。一般的な評価が低い時期から「将来、ドガの絵は必ず値が上がる」といって、友人に熱心に購入を勧めていました。
裕福な生まれで、知的で、芸術を愛し、デッサンこそ絵画の基本だと考えていた二人は、たしかに気が合っていたのです。

「メアリー・カサットの肖像」1884年
しかし、二人が結婚に至ることはありませんでした。
何らかのロマンスがあったかどうかもわかりません。
なぜならばドガの死後、カサットはドガからもらった手紙をすべて燃やし、ドガに描いてもらった肖像画も売ってしまったからです。
ドガの生前こそ遠慮していましたが、カサットはその絵を気にいっていませんでした。
「ドガは私を美しく描いてくれなかった」と、悲しんでいたそうです。
カサットはドガに思いを抱いていたかもしれませんが、ドガはそれに応えませんでした。

「入浴」1887年
親友のマネ夫妻の絵を描いたときも、夫人を醜く描いてその部分を切り取られたくらいですから、ドガは見たとおりに描くのが正しいと思っているのでしょう。
ルノワールのように仕事だと割り切って美化した肖像画を描いたり、ブーグローのように理想化された美を描いたりには、ドガは興味を持ちませんでした。
ドガが描きたいのは、今そこにあるリアルです。
ですからドガは、相手が女性であっても、ことさらに美しく描こうとはしません。
ドガは裸の女性の入浴姿を数多く描きましたが、それらは美しさよりも造形的な面白さにフォーカスしたものです。
逆に言えば、他人にはあまり見られたくないであろうポーズも散見されます。
実生活よりも芸術を愛したドガ

「エトワール(スター)」1878年
コラムニストの山田五郎さんはドガを「真の変態」と形容しましたが、そのヘンタイさは極めて現代的です。
フツーの人は、芸術家といっても、どこかで名声やお金や異性に気を取られるものです。
現代でも「モテたくてミュージシャンになった」と公言する人が少なからずいるように、名声や成功への渇望が創作の動機になることはよくあります。
しかしドガは、芸術がすべてだと言わんばかりに禁欲をつらぬき、頭でっかちに誰彼かまわず議論をふっかけて、自我をこじらせていきます。
おそらく、周囲からは面倒くさい人と思われていたはずです。
いちばんの理解者であったカサットですら、最後はドガのもとを去っていきました。
パーティーピープルになれないオタク。
三次元より二次元を愛するヘンタイ。
それがドガです。
ですが、個性尊重の現代を生きる私たちの中には、少なからずドガが息づいているような気がします。
ちなみに、原田マハ『ジヴェルニーの食卓』所収の短編「エトワール」では、メアリー・カサットの目を通して、芸術至上主義者ドガの姿をしみじみと描いています。
ドガを好きな方はぜひ読んでみてください。
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