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ナチスが造った贋札(その2)
~画家になりたかったアドルフ・ヒトラー

贋札の製造や使用はれっきとした犯罪です。
しかし、利益が大きいために、紙幣が初めて登場した10世紀の中国・北宋王朝の時代からすでに贋札は存在していました。
その後の元王朝などは贋札製造の罰を死刑にするほど厳重に取り締まっています。
現代でも北朝鮮が偽ドル紙幣を製造しているとの噂が絶えないように、贋札の流通は国家に大きなダメージを与えます。
そのため、贋札は化学兵器や核爆弾と同様に厳しく取り締まられねばならないのですが、第二次大戦当時は、ドイツも日本も作戦として実行していました。
後ろ暗い犯罪であるため、ナチスは秘密が外に漏れないように、強制収容所に収容されたユダヤ人を使って贋札造りを行っていました。
前回の話「ナチスが造った贋札(その1)~ニセ札つくりに協力したのは強制収容された画家?」を参照。

 

贋札造りの苦労

DVD『ヒトラーの贋札』東宝

贋札が流通すると社会が混乱しますから、私たちが知る紙幣には、偽造防止の技術が何重にも組み込まれています。
一見、ただの白い紙なのに光に透かすことで絵が浮き出る「透かし」もその一つです。
紙の濃淡で絵を表現する「透かし」は、いわゆる光学コピーでは再現することのできない模様の一つです。
もっと原始的で重要なのは紙質です。
人間の手は非常に高性能なセンサーですから、紙の厚さや硬さが異なれば違和感に気づくことができます。
戦時中、イギリスの銀行では、紙幣をくしゃくしゃに丸めたときの音で、贋札かどうかを判別するとも言われていました。
イギリス紙幣を解析したナチスは、原料にアジアの苧麻(からむし)と亜麻の繊維が混ぜてあることを知りました。紙幣を頑丈にするため、布を切り刻んで材料としていたのです。
しかし何度造ってみても、本物とは何かが違います。
試行錯誤の結果、使われていた布が、使い古されたぼろ布であることがわかりました。それを手間のかかる手すき方式で製紙することで、ようやく満足のいく紙ができました。
紙幣の印刷用紙を造る段階だけでもかなりの期間がかかったのです。
贋札造りの苦労は、偽造に携わった印刷技師アドルフ・ブルガーの回想録『ヒトラーの贋札 悪魔の工房』や、それを原作とする映画『ヒトラーの贋札』でも強調されていました。
映画はブルガーではなく、贋造犯罪者の画家サロモン・スモリアノフ(サリー)を主人公として描き、アカデミー外国語映画賞を受賞しました。

 

画家になりたかったヒトラー

アドルフ・ヒトラー《ウィーン国立歌劇場》(1912年)

「透かし」の入った用紙ができても、模様や文字の再現にはさらに時間を要しました。
この段階で必要とされたのは、印刷工や画家など手先の器用な職人です。
強制収容所には、サリーのほかにペーター・エーデルやレオ・ハースといった画家たちがいました。
彼らの尽力で紙幣の細かな模様がそっくりに製版されるようになりました。
難しかったのは暗号化されている紙幣番号の偽造ですが、それは実際のポンド紙幣の番号をそのまま写すことで解決しました。
ちなみに、ナチス総統のアドルフ・ヒトラーは、若い頃に画家を目指してウィーン美術アカデミーへの入学を志したものの、二度も受験に失敗した過去があります。
アカデミーの教官は、ヒトラーが人物画にあまり興味がないことを見抜き、美術ではなく建築学への進学を勧めますが、ヒトラーは従いませんでした。
後にヒトラーは生活のためにウィーンの風景を描いてポストカードにして売っていましたが、いずれも建物はとてもよく描けています。
ナチスの業績の一つにアウトバーンなどの建築があげられますが、もしヒトラーが建築家として身をたてていたら、アウシュビッツの惨劇はなかったかもしれません。

 

終戦と解放

イギリス・ポンド紙幣の贋札造りに成功したナチスは、1944年からアメリカ・ドル紙幣の偽造に取り組みます。
しかし、完成すれば用済みになった自分たちは殺されるとわかっていた工房の職人たちは、わざと製作を遅らせて作戦の邪魔をします。
そうこうしているうちに、ノルマンディーに上陸したアメリカ軍がドイツの首都ベルリンにまで迫り、紙幣偽造計画「ベルンハルト作戦」の指揮官ベルンハルト・クルーガー少佐は、秘密保持のために工房の職人をすべて殺害するよう曹長に命じて姿を消します。
幸運なことに、全員殺害の命令が実行される前に収容所がアメリカ軍によって解放されたため、100人以上の職人はほぼ全員が生きて戦後を迎えることができました。
アメリカ・ドルの贋札は使われることなく終戦になりましたが、イギリス・ポンドの贋札はナチスの軍資金としておおいに使われました。
その用途の一つにナチスが買い集めた美術品の支払いがありました。あのメーヘレンが描いたフェルメールの贋作も贋札で購入されたと言われています。
いま美術界を騒がせている偽版画も同様ですが、贋作が横行すると、正規品の価値が下がってしまいます。
ナチスの贋札は、ポンドの価値を下げて、イギリス経済を弱体化しました。
イギリスは戦後、5ポンド以上の高額紙幣をすべて回収して使用不能にしたのですが、後の祭りでした。
一説によれば、戦後にポンドが基軸通貨の地位をドルに奪われたのは、大量にばらまかれた贋札のせいだそうです。

 

 

参考文献
アドルフ・ブルガー『ヒトラーの贋札 悪魔の工房』朝日新聞社(2008年)
ローレンス・マルキン『ヒトラー・マネー』講談社(2008年)
植村峻『贋札の世界史』角川ソフィア文庫(2020年)

   

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