アートコラム

アート界の黒人たちとブラック・ライヴズ・マター運動

2020/07/06

アメリカで「黒人の命も大切(Black Lives Matter)」運動が盛り上がっています。
黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に首を押さえつけられて窒息死したことへの抗議活動からはじまったこの運動は、長期の全米デモとなって世を揺るがしています。
アメリカだけでなく、フランス、ドイツ、イギリス、日本でも人種差別に反対する抗議デモが行われました。
特に、広大な海外植民地を獲得し、世界史上の最大版図を誇った過去のあるイギリスでは、植民地での搾取や奴隷貿易に反省の目が向けられました。
その結果、港町ブリストルでは奴隷貿易商人エドワード・コルストンの銅像がデモ隊によって引き倒されて、川に投げ込まれる暴動が起きました。
これに対し、ブリストル出身とされるバンクシーが、自身のインスタグラムで作品とコメントを発表しました。

 

ブリストルの真ん中にある空の台座をどうしましょう?
私のアイデアは、コルストン像を懐かしむ人にも、
そうでない人にも対応できます。
彼を水中から引き揚げて台座に戻し、首にケーブルを巻きつけて、
そのケーブルを抗議者の等身大の銅像につなげて、
引き倒すシーンを再現します。
これで、どちらもハッピーです。この日の記念になるでしょう。

 

バンクシー作品一覧 >>

エドワード・コルストンの銅像は数日後に水から引き揚げられ、今後は、抗議者による落書きを残したまま、ブリストルの博物館で展示される予定です。街の歴史と抗議との両方を残すという意味では、バンクシーの提言に近いものになったと言えるでしょう。

 

黒人差別の歴史に幕を

白人警官から黒人容疑者への行き過ぎた暴力と死があったとはいえ、なぜここまで運動が世界的に拡大しているのでしょうか。
その理由は、アメリカにおける人種差別の歴史と、それに対する積み重ねられた不満が背景にあるからです。
5月にミネソタ州でジョージ・フロイドさんが死亡する前にも、3月にはケンタッキー州で白人警官が人違いの黒人女性を射殺する事件があり、2月にはジョージア州でジョギングをしていた黒人男性が白人民間人に射殺されていました。
抗議デモが続くなか、6月にはやはりジョージア州で黒人男性が警官に射殺されるなど、事件が相次いでいます。
ワシントン・ポストによれば、直近の5年間にアメリカで警官に射殺された人の数は約5400人いました。そのうち白人が約2500人、黒人が約1300人です。
しかし、アメリカの人口比では白人は黒人の5倍以上になるため、黒人のほうが圧倒的に殺される確率が高いと言えます。
17~19世紀のアメリカで、アフリカから奴隷として連れてこられた黒人が、白人に“所有”されて人権を奪われていたことは周知の事実ですが、1865年に奴隷制度が廃止された後も差別は根強く残りました。
1964年までは、黒人に公共施設の利用を制限する法律が存在し、バスやトイレを別にするなど人種隔離的な政策が公然と行われていました。
また、奴隷制度が廃止されたといっても、その補償も十分には行われず、貧困の中で教育も受けられず、社会的上昇が難しい立場に追い込まれた黒人がおおぜいいました。
現在、アメリカやヨーロッパなどで、公立大学や役所などに黒人が優先的に入学・就職できるアファーマティブ・アクションが行われているのは、歴史に対する反省があるからです。

 

黒人画家のパイオニア

ジョシュア・ジョンソン≪男の肖像≫

アメリカのアートの世界では、黒人画家はどのような扱いを受けてきたのでしょうか。
アメリカにおける最初の著名な黒人画家は、ジョシュア・ジョンソン(1763-1824)だと言われています。日本で言えば葛飾北斎と同世代です。
ジョシュアは白人男性と黒人奴隷女性との間に奴隷として生まれました。
当時のアメリカでは、わずかでも黒人の血が混じっているものは黒人としての扱いしか受けられませんでした。
幸いなことにジョシュアは19歳のときに、白人農夫のジョージ・ジョンソンに買われて、息子として育てられることになりました。自由の身となったジョシュアは、肖像画家として生計をたてるようになります。
作品を見る人には画家の肌の色はわからないため、ジョシュアの描いた絵は正当な評価を受けることができたようです。

 

黒人女性芸術家の苦難

次に特筆すべき黒人アーティストとして、女性彫刻家エドモニア・ルイス(1844-1907)があげられます。彼女はフランスの素朴派アンリ・ルソーと同年に生まれました。
19世紀のアメリカで、黒人で、女性で、しかも彫刻家として有名になることはとても大変なことです。彼女は21歳でローマに渡って成功しましたが、それも苦難の道でした。
エドモニアはニューヨーク州で自由黒人の両親の間に生まれました。

エドモニア・ルイス≪クレオパトラの死≫

彼女の父親は、中南米で初めて植民地からの独立を勝ち取った黒人国家ハイチからの移民です。そして彼女の母親は黒人とアメリカ先住民との間に生まれました。つまりエドモニアはアフリカ系とネイティブアメリカンの血を受け継いでいます。
エドモニアは奴隷制廃止論者の支援を受けてカレッジに進学して彫刻を学びましたが、その肌の色から差別と無縁ではいられませんでした。そこでアメリカを離れてローマに渡って古典主義的な大理石の彫刻を学び、ようやく成功しました。
エドモニアの作品の中には黒人をモチーフにしたと思われるようなものもあります。
しかし、ギリシャ・ローマ時代の理想を描く古典主義的な作風で、なおかつ白い大理石の彫刻であったため、黒人をモチーフにしてもあまり黒人らしくは見えません。黒人らしい黒人の像が売れるほどには、まだ市場は成熟していませんでした。
現在の歴史学では、イエス・キリストやクレオパトラの肌の色は黒かったのではないかとも言われていますし、今後は状況も変化していくでしょう。

 

人種差別は国外脱出を引き起こす

19世紀アメリカで最も重要な黒人画家はヘンリー・オサワ・タナー(1859-1937)です。ヨーロッパで言えば、ミュシャやクリムトの同時代人です。

 

ヘンリー・オサワ・タナー≪バンジョーレッスン≫

ヘンリーの両親は高等教育を受けた自由黒人で、当時の黒人としては例外的なエリートでした。
ヘンリーは21歳の時に、ペンシルヴァニア美術アカデミー唯一の黒人学生として美術教育を受けましたが、そこで人種差別を受けることまでは避けられませんでした。
卒業後、ヘンリーは画家として生計をたてることに苦労し、32歳の時にパリに渡ります。パリでは国立美術学校(エコール・デ・ボザール)に入学するつもりでしたが、外国人学生を受け入れていなかったので、女性や外国人にも門戸を開いていた私立のアカデミー・ジュリアンで学びました。
その後のヘンリー・オサワ・タナーはアメリカに比べれば人種差別の少ないフランスで、オリエントの風景画や宗教画などを描いて生計をたてました。その評価はたいへんに高く、晩年にはフランス政府からレジオンドヌール勲章も受賞しています。
また、アメリカに短期帰国したおりに、黒人差別に抗議する公民権運動に共感したヘンリーが描いた黒人絵画≪バンジョーレッスン≫は、黒人を描いた絵画の名作として知られています。

 

美術教育を受けられなかった黒人画家

アメリカで奴隷制度が廃止された後、それまで十分な教育を受けられず資産も持たなかった多くの黒人たちは、補償もなしに自由にされたために貧困生活を強いられました。
そのため、ホレイス・ピピン(1888-1946)のように独学の画家が多く誕生しました。

 

ホレイス・ピピン≪自画像≫

ホレイスは、ヨーロッパで言えば藤田嗣治やシャガールなど、エコール・ド・パリの画家と同世代ですが、その生涯は大きく異なります。
10歳の頃から絵を描き始めたホレイスは、病気の母親を助けるために15歳で学校を止めて働き始めました。
母の死後、第一次世界大戦に従軍した際は、戦場にスケッチブックを携えていくほど絵を描くことが好きでした。
戦傷者となったホレイスは、帰国後は夫婦で小さな洗濯店を営みながら絵を描きました。アンリ・ルソーを彷彿とさせる素朴な絵は、やがて美術業界の注目を集め、展覧会などが開かれるようになりました。
黒人画家としてはそのほか、「アフリカ系アメリカ人画家の父」と呼ばれ、黒人のためのフィスク大学に芸術学部を設立したアーロン・ダグラス(1899‐1979)や、黒人の歴史や生活を描き続け、ワシントン大学教授となったジェイコブ・ローレンス(1917‐2000)などが有名です。
3人とも高等教育機関で正規の美術教育を受けていないためか、その絵は一種の自由さに満ちています。

 

黒人画家というアイデンティティ

アメリカの黒人画家として最も有名なのは、おそらくジャン=ミシェル・バスキア(1960-1988)でしょう。
戦後生まれのバスキアは、アメリカが豊かな時代に育ち、その作品も黒人差別の暗い影をあまり宿していないように見えます。
アメリカ自治領であるプエルトリコ出身の母親と、独立国家であるハイチ出身の父親との間に生まれたバスキアには、アフリカ系アメリカ人の奴隷の歴史は、あまり身近なものではなかったのかもしれません。
幼少時から絵を描き始め、地下鉄やハーレムの壁などへのグラフィティアート(落書き)で名を成したバスキアは、黒人差別に抗議する公民権運動よりも、ヒップホップなどストリートカルチャーの香りが強くあります。
実際、キース・ヘリングやアンディ・ウォーホルなどと親しく交流したバスキアの人間関係には、人種の壁があまり見られません。
しかし、バスキアの作風は、見る者に彼が黒人であることを意識させることが多いです。
バスキア自身は「黒人アーティスト」と見られることを好まず、ただ普遍的な「アーティスト」と見てほしかったそうですが、黒人のイメージは最後まで彼について回りました。
黒人としてのアイデンティティをどこまで打ち出していくかは、今後もアメリカの黒人アーティストが抱える課題なのかもしれません。

 

アメリカ出身ではありませんが、翠波画廊ではセネガルの黒人画家ドウツを推しています。バスキアにも通じるところがあるその作品を、一度ご覧になってください。

 

参考文献
石井朗『描かれる他者、攪乱される自己:アート・表象・アイデンティティ』ありな書房

 

 

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