アートコラム

作品を売らないし、署名もしない、謎の覆面アーティスト

2017/08/21

 

アーティストとお金の関係は、いつだって興味深いものです。
アーティストは芸術的衝動に突き動かされて絵を描くものですが、絵を描き続けるためには、常にお金が必要だからです。
そこで、近代からは、アーティストは作品を売って生活の糧に変えて、その作品を売るために画商が必要とされるようになりました。
ところが、21世紀の現在、絵を描くだけで売ろうとしないアーティストが話題になっています。

 

作品を公開するだけで売らない、話題の覆面アーティストとは、グラフィティ・アーティストのバンクシー(Banksy)です。

 

2017年、一般のイギリス人2000人を対象に、好きな芸術作品を訊ねたところ、19世紀の画家ジョン・コンスタブルの「干し草車」を抑えて、バンクシーの作品「バルーンガール」が1位に選ばれたとのニュースがありました。イギリスでは、それだけポピュラーな存在ですが、日本での知名度はいま一つでしょうか。

▲「バルーンガール」

あまり現代アートに馴染みがないと、今年(2017年)5月の海外オークションで、日本人が123億円で落札して話題になったグラフィティ・アートの作者バスキア(Basquiat)を想起するかもしれませんが、名前は似ていても別人です。

 

バスキアは1988年に27歳で亡くなったアメリカの画家です。ストリートのグラフィティ(落書き)から出発してはいるものの、画家として有名になってからは、キャンバスに作品を描いて、グラフィティからは足を洗いました。

 

一方、バンクシーは、1990年代からイギリスで活動を始めた、生粋のグラフィティ・アーティストです。グラフィティとは、街の建物の壁などにスプレー缶などで勝手に描かれた落書きのことで、1980年代にストリートのアートとして注目されるようになりました。バンクシーが、本名や年齢や素顔を隠して謎の画家でいるのは、公共の建造物や私有財産に、勝手に絵を描いてしまうグラフィティが違法行為だからです。実際、多くのグラフィティは、自治体や建物のオーナーによって、描いたそばから塗りつぶされていきます。そのように、一過性のアートであるところが、グラフィティ・アーティストの反骨心をより刺激して、カウンター・カルチャーとして栄えるようになったのでしょう。その中でも最も有名になったのが、イギリスのバンクシーです。

 

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▲Banksy Official Siteより

バンクシーが話題になったのは、2005年に、MOMAやメトロポリタン美術館や大英博物館などに、自分の作品を勝手に展示するパフォーマンスからです。
その後、イスラエルとパレスチナの紛争地帯を隔てる分離壁にグラフィティ・アートを描く、政治的なパフォーマンスでも名を上げました。バンクシーが有名になるにつれて、その作品の価値も上がります。しかし、他人の所有する壁に描かれたバンクシーの作品は、所有者の許可がなければ取り外して売買することができません。こうして、作品を売らないアーティスト、バンクシーの伝説が作られていったのです。

 

一般に、アーティストが作品を売らないと、二つの弊害があります。一つは、生活や作品製作のための資金を、他から得なければならないことです。もう一つは、売らなければ流通に乗らないため、作品を公開する手段が限られてしまうことです。

 

おそらくバンクシーにはどちらも問題ではないのでしょう。生計は別にたてることができますし、街に描いた作品は、そのままでも多くの人の目に触れるからです。もちろん、作品は消されることもありますが、ネット時代の今日では、写真が勝手にSNSで拡散します。そもそも、署名をしないバンクシーの作品が、本人の手によるものだとわかるのは、バンクシーが自身のウェブサイトに写真をアップしているからです。

 

バンクシーのようなグラフィティ・アーティストに対して、行政を中心に違法行為だと批判する声がある一方で、その芸術価値を認めて作品を保存しようとする動きもあります。今年(2017年)、アメリカで公開された映画『セービング・バンクシー』は、バンクシーの作品をめぐる、そのような問題を描いています。

▲Saving Banksy Official Siteより

映画に出てくる画商ステファン・ケスラーは、作品が描かれた壁の所有者の許可を得て、壁を取り外し、バンクシーの作品の販売を手掛けています。
実際に、オークションでバンクシーの作品が110万ドル(約1億800万円)で売れたり、ハリウッド俳優のブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー夫妻が、バンクシーの展覧会で作品数点を購入したりの実績があるからです。しかし、作品を市場で流通させる行為については、バンクシー本人の許可が出ていないことから、非難の声もあります。とはいえ、そもそも他人の所有物に落書きをする行為が違法なのです。

 

一方、コレクターのブライアン・グライフは、作品を保存するために、所有者と交渉して美術館に寄付してもらうよう運動しています。しかし、美術館の学芸員は、本人の署名のない作品は、本物だと認めることができないとして、寄付を受け付けません。こうして、何十万ドルもするバンクシーの作品は、行政当局によって消されてゆきます。そのような顛末すらも、バンクシーのパフォーマンスの一部のような気がしてくるのです。

 

さて、翠波画廊であれば、この問題にどう対峙するでしょうか。おそらく、お客さまの希望を第一と考えて、ご相談があれば取り扱うように動くことでしょう。
しかし、実際に入手できるかどうかは別問題です。美術作品はいずれも一点ものですから、手に入るかどうかは時の運です。みなさんも、欲しい作品に出会ったときには、一期一会を大事にしてください。

 


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