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最も偉大なアメリカ人画家とは?
~映画『ポロック 2人だけのアトリエ』で見るジャクソン・ポロック

2017年までに、最も高額で取引された絵画のベスト15を眺めると、そうそうたる画家の名前が挙がっています。ダ・ヴィンチ、セザンヌ、ゴーギャン、モディリアーニ……一方で、ゴッホ、モネ、ルノワールといった名だたる画家の作品はベスト15の圏外です。
その中で、3人の画家が複数作品でランクインしています。ピカソ、デ・クーニング、そしてポロックです。今回は、ジャクソン・ポロックに焦点をあててみましょう。

 

ジャクソン・ポロック 「ナンバー17A」 1948年 油彩

 

最も高額で取引されたジャクソン・ポロックの絵画は、1948年に描かれた「ナンバー17A」。ドリッピングの技法を使い始めた初期の絵で、いわゆるポロックらしさに溢れています。
売買価格は、およそ2億ドル。2015年に、デヴィッド・ゲフィンが投資家のケネス・グリフィンに売却しました。
このとき、顧客のグリフィンはデ・クーニングの「インターチェンジ(Interchange)」も同時に買い、2枚で5億ドルを支払ったとされています。
ポロックとデ・クーニングは、どちらもアメリカの抽象表現主義の画家で、ニューヨーク・スクールの一員でした。

ジャクソン・ポロックは1912年、ワイオミング州で、男ばかりの5人兄弟の末っ子として生まれました。アルコール依存症の父は転職を繰り返した末に家出し、母は生活に追われて冷淡になり、あまり幸せな幼少期ではありませんでした。そのせいかポロックは素行も悪く、喧嘩のせいで軍隊や高校を退学になっています。
画家を目指したポロックは30歳頃まで無名でしたが、富豪のコレクター、ペギー・グッゲンハイムに目をつけられて名を上げます。やがて、ドリッピングの技法を使い出すと、「ライフ」誌で「ジャクソン・ポロックは現存するアメリカのもっとも偉大な画家か?」という特集を組まれて人気作家になります。
その活躍は長く続きませんでした。1956年、44歳のときに、飲酒運転による自動車事故でポロックは世を去ります。同乗していた愛人ルースは一命を取り留めましたが、一緒にいた彼女の友人は死亡しました。

波乱万丈のポロックの人生を、研究者のスティーヴン・ネイフとグレゴリー・ホワイト・スミスがまとめた伝記「Jackson Pollock: An American Saga」(未訳)は、1991年のピューリッツアー賞伝記部門を受賞しました。
その伝記を原作として、作られたのが映画『ポロック 2人だけのアトリエ』です。映画の原題はただ「Pollock」ですが、邦題では妻である画家リー・クラズナーの存在を大きくしています。実際、酒浸りだったポロックを立ち直らせ、「あなたは天才だ」と褒めて勇気づけ、マネージャーとして画商に売り込んだのは、姉さん女房のリーです。彼女がいなければ、ポロックは見出されることがないまま、歴史の闇に埋もれていたかもしれません。

 

映画『ポロック 2人だけのアトリエ』より


ところが、死の直前は愛人の存在などから夫婦の関係は悪化していました。ポロックが自動車事故で亡くなったのは、妻のリーが単身でヨーロッパへ旅立った一か月後のことです。

ポロックの絵は、たっぷりと絵具をつけた筆から絵具をしたたらせて描くもので、ドリッピングとかアクションペインティングと呼ばれました。
重力や慣性の法則によってつくられる線は美しく、何よりもまったく新しい絵であったことから、当時はたいへんな話題を呼びました。いきなりやってきた名声に、ポロック自身が振り回されてしまった面もあるのでしょう。
ポロックを献身的に支えてきた妻のリーは、ポロックの死後は自分の絵の製作に打ち込み、75歳の天寿を全うしました。

華やかな成功を収めたアーティストが、人気のピークを超えたところでスランプに苦しみ、酒に溺れて、愛人と共に自動車事故で死亡というのは、ロックバンドT.REXのマーク・ボランを彷彿とさせます。このような死に方はアーティストを神格化するものでもあります。
実際ポロックの人生は、芸術家のストーリーとしても人々を魅了するものでした。

フランシス・ゴヤの「裸のマハ」からペンネームを取ったとされる作家の原田マハさんは、2017年の小説『アノニム』でジャクソン・ポロックを題材にしました。元美術館キュレーターで、画家をモチーフにした作品で知られる彼女は、そのほかにも短編集『ジヴェルニーの食卓』でモネ、セザンヌ、ドガ、マティスを、『楽園のカンヴァス』でルソーを、『暗幕のゲルニカ』でピカソを、そして最新作『たゆたえども沈まず』ではゴッホを描いています。

 

余談ですが、ポロックの伝記を書いてピューリッツアー賞を受賞した2人は、後に、ゴッホの残された手紙から伝記『ファン・ゴッホの生涯』(国書刊行会)をまとめ、そこでゴッホの死は自殺ではなかったとの新説を披露しています。
ゴッホもポロックも、生活面ではいろいろと難があったようですが、それゆえに狂気の天才のイメージが定着し、人気が高まった面があるのでしょう。

 

 

高額取引絵画ベスト15(2017年12月現在)
1. ダ・ヴィンチ「サルバトール・ムンディ」2017年、約4億5000万ドル
2. デ・クーニング「インターチェンジ」2015年、約3億ドル
3. セザンヌ「カード遊びをする人々」2011年、約2億5000万ドル
4. ゴーギャン「いつ結婚するの?」2014年、約2億1000万ドル
5. ポロック「Number 17A」2015年、約2億ドル
6. ロスコ「No.6」2014年、約1億8600万ドル
7. レンブラント「マールテン・ソールマンスとオーペン・コーピットの肖像」2015年、約1億8000万ドル(2枚1組)
8. ピカソ「アルジェの女たち(バージョンO)」2015年、約1億7900万ドル
9. モディリアーニ「横たわる裸婦」2015年、約1億7000万ドル
10. リキテンスタイン「マスターピース」2017年、約1億6500万ドル
11. ピカソ「夢」2013年、約1億5500万ドル
12. クリムト「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅱ」2016年、約1億5000万ドル
13. ベーコン「ルシアン・フロイドの3つの習作」2013年、約1億4200万ドル(3枚1組)
14. ポロック「No.5,1948」2006年、約1億4000万ドル
15. デ・クーニング「女性Ⅲ」2006年、約1億3700万ドル

 

 

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