藤田嗣治《ターバンの若い女性》
~藤田の孤独と再生、そしてふたたび描かれた美しさ~
このたび、藤田嗣治の油彩作品《ターバンの若い女性》が入荷いたしました。
1951年、藤田が戦後の長い彷徨を経て、ようやく再びパリに腰を落ち着けた時期に描かれた、たいへん味わい深い一点です。
美術史に名を遺した作家の光と影
藤田嗣治という画家の人生は、華やかな成功だけで語ることはできません。
1913年、若き藤田は単身パリへ渡り、モンパルナスの芸術家たちの中で独自の地位を築きました。
日本画の繊細な線と、西洋絵画の油彩技法を融合させた「乳白色」の肌は、当時のパリで大きな賞賛を受けます。
藤田は、異国から来た一人の画家でありながら、エコール・ド・パリを代表する存在となりました。
しかし、その後の藤田の人生には、深い孤独が待っていました。
藤田が深める孤独とその背景
藤田嗣治《薫(かおる)空挺隊敵陣に強行着陸奮戦す》東京国立近代美術館所蔵
藤田は第2次世界大戦の戦火迫るパリを脱出し帰国します。
帰国後、戦時下の日本で藤田は軍の依頼を受け戦意高揚の戦争画を描きます。
ところが敗戦後、その事実は藤田に重くのしかかります。
日本の美術界からは厳しい目を向けられ、かつて熱狂的に迎えられた画家は、次第に居場所を失っていきました。
1949年、藤田は日本を離れ、アメリカへ渡ります。
けれども、そこもまた安住の地ではありませんでした。
新天地であるはずのニューヨークでも、次第に彼は孤独を深めていきます。
苦難を越えて至る、表現の極致
作品写真そして1950年、藤田は再びフランスへ戻ります。
モンパルナスに身を置き、ようやく自分のリズムで絵を描ける日々を取り戻していきました。
本作《ターバンの若い女性》が描かれた1951年は、まさにその翌年にあたります。
この作品に漂っているのは、戦後の苦難を越えた画家の、静かな解放感です。
背景には、藤田ならではのやわらかな乳白色の空間が広がります。
その白は、単なる白ではありません。
光を含み、沈黙を含み、そして女性の存在をやさしく浮かび上がらせる、藤田だけが生み出すことのできた特別な白です。
その中に描かれた若い女性は、華美に飾り立てられているわけではありません。
けれど、ターバンを巻いた姿には、どこか異国的で、気品ある佇まいがあります。
藤田の線はあくまでも繊細で、必要以上に主張しません。
輪郭、眼差し、口もと、首筋。最小限の線でありながら、そこには女性の内面までもすくい取るような深さがあります。
藤田の生きざまが息づく、愛される至高の一枚

藤田の人物像の魅力は、単に美しい女性を描いているところにあるのではありません。
そこには、知的な佇まいの静けさがあります。
そして、見る者が思わず近づきたくなる余白があります。
この《ターバンの若い女性》にも、藤田が長い時間をかけてたどり着いた美意識が宿っています。
パリで称賛された若き日の華やかさだけではなく、戦争を経験し、日本を離れ、アメリカで孤独を味わい、それでもなお絵筆を手放さなかった
また、本作は長く日本のコレクターのもとで大切に守られてきた作品です。
そのことは、現在の良好なコンディションからも見て取ることができます。
作品というものは、ただ残っていればよいわけではありません。
どのように扱われ、どのように愛され、どのように受け継がれてきたかによって、その表情は大きく変わります。
時代を超えるもの:作品の価値の本質を見つめて
この作品には、長年にわたり丁寧に扱われてきた品格があります。
そして、それは作品の魅力をいっそう深めています。
アートの価値は、価格だけで決まるものではありません。
まず、作品そのものに人の心を動かす力があること、作家の人生がそこに宿っていること、時代の空気を伝えていること。
そして、長い時間を経てもなお、次の所有者へ手渡したいと思わせる力があること。
藤田嗣治の作品が今なお多くの人を惹きつけるのは、その一枚一枚に、絵画としての美しさだけではなく、時代を生き抜いた人間の深い影があるからだと思います。
その絵に宿る、藤田の芸術
《ターバンの若い女性》は、藤田がようやく再びパリで描く自由を取り戻した時期の作品です。
乳白色の静けさ、繊細な線の美しさ、若い女性の気品ある表情。
そして、その背後にある藤田の孤独と再生の物語、そのすべてが重なり合い、この一枚を、単なる女性像ではない特別な作品にしています。
藤田嗣治という画家の人生を知るほどに、この作品の前に立つ時間と意味は深くなります。
戦争、喪失、孤独、そしてパリへの帰還、その果てに描かれた若い女性の姿は、どこか静かで、凛としていて、見る者の心に長く残ります。
当時のパリの空気と、藤田がたどった人生の陰影を今に伝える本作は、時を経てなお評価と価値を高めていく藤田芸術の魅力を、あらためて感じさせてくれる貴重な一枚です。
乳白色の静けさ、繊細な線、そして気品ある女性像。
藤田嗣治の魅力を身近に感じていただける、たいへん味わい深い一品としてご紹介いたします。
翠波画廊 髙橋芳郎

翠波画廊代表 髙橋芳郎
株式会社ブリュッケ(翠波画廊)代表取締役。
美術大学卒業後、都内の画廊での修行を経て、1990年に独立。 2001年、故郷の秀峰の名を冠した「翠波画廊」をオープンさせる。
以降長きにわたり、ピカソ、マティス、藤田嗣治、ユトリロ、ローランサン等フランスの近代巨匠から、
ウォーホル、キース・へリング等現代アートまで幅広く扱う。
《新入荷作品のご紹介》
藤田嗣治《ターバンの若い女》1951年頃 油彩画寸:24.2×19.4cm(縦×横)
額寸:53×48cm(縦×横)
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