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我が子のように愛したコレクション
~映画『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』を観る

いわゆるアート・コレクターといえば、バーンズ・コレクションを作ったアルバート・バーンズや、ロックフェラー・コレクションのデイヴィッド・ロックフェラーなど、大富豪の名前が上がるものです。
しかしアメリカには、収入も生活も一般庶民なのに、その二人と並ぶくらいに有名になった市民コレクターがいます。それが、ハーバートとドロシーのヴォーゲル夫妻です。
郵便局員のハーバートと図書館司書のドロシーはごく普通の公務員夫婦ですが、熱心なアート・コレクターであり、40年以上に渡ってコツコツと4000点以上のアート作品を収集しました。
その作品は一点も売られることなく、すべてワシントンのナショナル・ギャラリー(国立美術館)に寄贈され、ヴォーゲル・コレクションとして展示されています。
いったい、何がヴォーゲル夫妻にそれほどの情熱をもたらしたのでしょうか?

 

ヴォーゲル夫妻

 

1922年生まれのハーバート・ヴォーゲルは、独立自尊の気風を持つ頑固なユダヤ人で、高校を中退して米軍に従事した後、郵便局で郵便物の仕分けをしていました。
一方、1935年生まれのドロシーは図書館学で修士号を修めた後、公立図書館で司書として働いていました。
お互いにユダヤ人家庭に育った二人は1962年に結婚し、夫婦共通の趣味としてニューヨーク大学の公開講座で絵を学ぶことにしました。当時のニューヨーク・アートシーンに従って抽象的な絵を描いていた二人は、やがて自ら絵を描くことよりも、ギャラリーに展示される最先端のアートを眺めることに興味を覚えるようになります。

ヴォーゲル夫妻の最初のコレクションは、婚約祝いとして購入したピカソの陶器でしたが、その後、夫妻はギャラリー巡りをする中で、気に入った新進芸術家の作品の購入に熱中するようになります。
無名作家の作品を買うのは、もっぱら予算の都合でしたが、実のところ彼らは作家が有名であるか無名であるかをほとんど気にしていませんでした。毎週末ギャラリー巡りをして、気に入った作品があれば値段を聞いて、買えるようであれば手に入れてきただけです。

 

二人が気に入った作品を購入するかどうかにあたって気にしたのは次の2点だけでした。一つは「自分たちの給料で買えること」、もう一つは「自分たちの住む1DKの賃貸アパートに入る大きさであること」です。
いきおい、二人のコレクションはドローイングなどの小品が多くなりますが、ときには立体作品も気に入ってしまうため、アパートの壁や天井は大小の絵画やオブジェで埋め尽くされることになりました。
夫妻には子どもがなく、ドロシーの給料だけでも生活ができたため、ハーバートの給料はすべて作品購入に注ぎ込まれることになりました。

 

無名の新進作家が中心だった彼らのコレクションですが、40年の間に有名になった作家も少なくありません。
公開されているヴォーゲル・コレクションの目録には、クリスト、リキテンスタイン、村上隆、マーク・コスタビ、ナム・ジュン・パイク、ドナルド・ジャッド、ソル・ルウィット、ロバート・マンゴールドなどが含まれています。
そして、ハーバートが結婚前に買ったコレクションには、ピカソをはじめ、クレー、モンドリアン、グリス、クプカといった近代絵画の作品もありました。

しかし、無名作家の作品とはいえ美術品です。なぜ二人は乏しい給料の中から、これだけのコレクションを築くことができたのか。その理由は夫妻の人柄にありました。


本当にアートが好きで、毎週熱心にギャラリーに通って作品を購入していた夫婦の姿は、いつしかニューヨークのアート界で有名になっていました。
二人が直接、作家のスタジオに行って「作品を見せてくれ」と頼めば、拒む人はほとんどいませんでしたし、「この作品が欲しいけど、お金があまりないんだ」と言われれば、安く譲ることに同意する人も少なくありませんでした。
なにしろヴォーゲル夫妻は、一度手に入れたコレクションを決して手放さないことで有名でした。お金のためではなく本当に好きで買っていることは、誰の目にも明白でした。


夫婦のお眼鏡にかなって、ヴォーゲル・コレクションに加えてもらえることを光栄に思う人も出てきました。いつしかヴォーゲル夫妻は、金銭ではなく名声のステータスになっていたのです。

テレビをはじめさまざまなメディアに登場したヴォーゲル夫妻を、海外にまで有名にしたのは、日本人の佐々木芽生監督による一本のドキュメンタリー映画でした。『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』と題された自主製作映画は、映画祭での受賞をきっかけにアメリカと日本で公開され話題になりました。ただ好きなことを突き詰める夫婦の慎ましい生き方は多くの観客を魅了し、2012年には続編の『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈り物』も作られました。

続編の制作途中の2012年、ハーバートが89歳で死去しました。残されたドロシーは、夫婦の共同作業であったアート・コレクションをきっぱりと止めることを宣言し、アパートにあったコレクションの残りを全てナショナル・ギャラリーに寄贈しました。

 

『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』より


映画は最後に、何十年ぶりかで片付いたヴォーゲル家のアパートを映し出します。ここで胸を打つのは、夫婦の間の愛情を象徴する一枚の絵です。それは新婚当時にハーバートが描いたドロシーの肖像だったのです。
77歳のドロシーが、夫の死後はアートに何の未練もないように見えるのは、コレクションに傾けてきた情熱が、夫への愛情そのものだったからかもしれません。

 


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