アートコラム

価格をつけて売ることができない現代アートとは?

2020/03/21

一般人にはとうてい手が届かないほど価格が高騰していくモダンアート。
アートの商業化に対して、一部の現代美術家が反発します。
そうして彼らが向かったのが、ハプニングやパフォーマンスと呼ばれる、モノとして残らない作品群でした。
一回限りのハプニングやパフォーマンスは、その場に居合わせなければ鑑賞できませんし、オークションなどで転売されることもありません。
この流れは1960~70年代に全盛期を迎えます。当時アメリカにいた草間彌生やオノ・ヨーコが盛んにパフォーマンス作品を発表し、日本でも赤瀬川原平や篠原有司男といったネオダダのグループが「東京美術館爆破計画」などを企てました。
中でも話題になったのが、自分の身体をライフルで撃たせたクリス・バーデンです。
クリスの発表した作品の数々は、アートの限界に挑むものでした。

 

芸術に命を張ったクリス・バーデン

クリス・バーデンが生まれたのは戦後すぐの1946年です。同世代には、ドイツのアンゼルム・キーファーや画商のラリー・ガゴシアンがいます。
クリスは高学歴の両親のもとに生まれ、当初は建築家を志しましたが、大手建築事務所での設計の仕事に飽きたらず、カリフォルニア大学大学院の芸術科に入学し直します。
ここで卒業制作として発表したのが、1971年の作品「ロッカー」です。
「ロッカー」は、カリフォルニア大学の学生に与えられる、持ち物を入れる60cm四方のロッカーの中に自分が閉じこもるという、ただそれだけの作品です。
大人が入るには小さすぎるロッカーに、クリスは手足を縛ってむりやり入り、そのままロッカーの中で5日間を過ごしました。
通りすがりの鑑賞者は、中にいるクリスと話をすることができますが、そこにいるクリス自身は何も作りません。ですから、写真やビデオといった記録以外には何も残りません。
それでも、まったく新しいアイデアだったロッカーは学内で話題になりました。そんな苦行を進んでしたい人は他にいなかったからです。
少なくともクリスの努力は教授に認められましたし、他の学生に与えたインパクトも絶大でした。

 

クリスは続けて、いくつものパフォーマンス作品を発表します。そのうちの一つが、冒頭で紹介した「シュート(射撃)」でした。
クリスは射撃の上手な友人に頼んで、立っている自分をライフルで撃たせたのです。
当初の予定では、銃弾は彼の右腕をかすめて一筋の傷跡を残すだけのはずでした。そのために射手は何度も練習を重ねました。
しかし実際のパフォーマンスでは弾がそれて、クリスの右腕を貫通したのです。まさにハプニングでした。
クリスは病院に運ばれ、医師は銃創だから警察に報告義務があるといって、警察が呼ばれました。事情聴取を受けたクリスは、アートがたちまちのうちに現実に回収されて、アートでなくなっていく様をまざまざと体験します。

 

 

売ることのできないハプニングは純粋な芸術か?

それで、クリスの挑戦が終わったわけではなく、その後も社会を挑発するような作品を作り続けます。
例えば1973年の「イカルス」では、自分の身体を縄で押さえつけて、その縄に火をつけました。炎が彼の身体に到達する前に、縄から脱出するパフォーマンスです。引田天功のマジックを想起させます。
1974年の「トランス・フィクスド」では、妻のバーバラを使って、自動車の車体に自分の身体を釘で打ちつけさせました。
十字架にかけられたキリストのような格好で、両掌を釘で打ち抜かせたのです。
何の予備知識もない観客は、車庫から出てきた車に磔られた裸のクリスを見て、たいへんなショックを受けます。
車はそのまま2分間エンジンをふかして、それから車庫に戻ります。扉が閉まります。観客は沈黙していました。
クリスの作品は、見る人にショックとストレスと気まずさを味わわせます。感情を揺さぶって、常識に疑問を抱かせることこそがアートだと、クリスが考えていたからです。
同じく1974年の作品「告白」では、クリスは淡々と、愛人との不倫セックスを告白しています。

 

パフォーマンスといっても、同じことの繰り返しをしていると、人々は慣れて驚かなくなります。
1975年の「ドゥームド(運命)」は、クリスに対して過激なパフォーマンスを期待する観客を、別方向から揺さぶるものでした。
この日、クリスのパフォーマンスを見るために美術館に集まった観客が見たものは、壁に斜めに立てかけられた大きなガラス板の下に横たわるクリスでした。
何が始まるのかと人々が期待して見守るなか、クリスは一言もしゃべらず、微動だにせず、そのまま何時間もが経過しました。
やがて美術館の閉館時間になりますが、クリスは動こうとしません。
パフォーマンスは続行され、2日目には通報を受けた警官が来ましたが、ただ寝ているだけのクリスに何かをすることはできません。3日目にはテレビのニュースが来ましたが、やはりクリスは動きませんでした。
やがてクリスの健康を心配したスタッフが水の入ったピッチャーを差し入れると、それをきっかけとしてパフォーマンスを終えました。
外から話しかけるのではなく、ガラス板の下に他人が入ってきた時点で終わる作品だったのです。

 

80年代に入ると、クリスはパフォーマンスを止めました。
しかし、その後も巨大で動く彫刻など、決して一般家庭で飾られることのないインスタレーション作品を、生涯にわたって作り続けました。
クリスが亡くなったのは2015年のことです。進行性の癌でした。
死ぬ間際まで作品制作に取り組んでいたクリスの姿は、ドキュメンタリー映画『バーデン』で見ることができます。
また、日本の金沢21世紀美術館には、玩具を使って巨大都市を再現した作品「メトロポリス」(2004)が所蔵されています。
ロサンゼルス・ミュージアム(LACMA)にある「メトロポリスⅡ」(2011)の動く姿は、ユーチューブでも見ることができます。

 

Behind the Scenes of a Kinetic Sculpture: Metropolis II by Chris Burden

ハプニングのバーデンからストリートのバンクシーへ

60年代から70年代にかけて流行した、ハプニングやパフォーマンスといった現代アートは、現在のストリートアートにその影響を見ることができます。
世界中の街路の壁にこっそりと違法で落書きしていくストリートアートは、まさに売ることのできないハプニングアートの後裔です。
中でもバンクシーは、ハプニングの精神を受け継ぐストリートアーティストです。
例えばバンクシーは2005年に、MOMA、ニューヨーク近代美術館、アメリカ自然史博物館、ブルックリン美術館といった4つのミュージアムに、無断でこっそりと作品を展示するパフォーマンスを行っています。
パフォーマンスとは人に見せるためのものですが、バンクシーのそれは行為の最中は人目を避けて、その後の人々の反応を観察するものです。
明らかに他の展示作品とは異なるバンクシーの作品ですが、誰もがよく見える位置に飾っているのにもかかわらず、数日間はスタッフにすら気づかれませんでした。

 

2019年もバンクシーは、美術祭ヴェネツィア・ビエンナーレを開催中のベニスに現れて、名前も名乗らずに路上パフォーマンスを行ったそうです。
その内容は、無許可の露店で自作の油絵を売るものですが、バンクシーと名乗らなかったために、ほとんどの人に無視されたそうです。
そのパフォーマンスをまとめた映像が、バンクシー自身によってインスタグラムにアップロードされています。おそらくは専門のスタッフがいると思いますが、映像編集センスにも優れています。
バンクシーのパフォーマンスは、世の中の常識に揺さぶりをかけるという意味で、まさしくハプニングの精神を受け継いでいます。
またバンクシーは、自らの作品がオークションなどで高値で転売される現状にも反発し、2019年には自らの作品を販売する公式オンラインショップ「Gross Domestic Product (GDP)」も開設しています。ここでは直筆サイン入りの作品を数万円、マグカップやTシャツを数千円で販売するなど、ファンに優しい金額になっています。
さらに、このショップの収益の大半を難民支援団体に寄付すると宣言しています。難民支援もまた、古くからのバンクシーのメッセージの一つです。

 

誰もが情報を簡単に発表できる現代では、ハプニングやパフォーマンスもソーシャルメディアを通じて拡散されて、名声という価値を得ることができるようになりました。
ネットで話題になった後に、CNNや朝日新聞がニュースとして後追いをする時代です。
わざわざ美術館に行かなくても無料で見ることができるストリートアートは、無料のインターネットに慣れた若い世代にとっては、権威から解放された等身大の芸術なのです。
社会貢献に強い関心を抱く若い世代にとっては、バンクシーこそが世の中に影響を与える本物のアーティストのように見えているのでしょう。

 

2020年3月15日から「バンクシー展 天才か反逆者か?(原題:BANKSY: GENIUS OR VANDAL?)」が横浜のアソビルで開催されています。
これは、世界4カ所で100万人以上を動員した話題の展覧会です。現在は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため5/6まで休館中とのことですが、再開を楽しみにしたいところです。

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