アートコラム

現代の印象派ギィ・デサップの魅力

2020/06/11

待望のギィ・デサップ初画集がようやく発売されました。
アマゾンや楽天などネット書店では『ギィ・デサップ パリを描く現代の印象派』のタイトルで販売しています。
翠波画廊スタッフも編集に協力したこの画集は、ギィ・デサップの60年以上の画業の集大成であり、128ページにわたってその世界を楽しむことができる逸品です。
今回は画集に収められたギィ・デサップさんのヒストリーを、ご紹介しましょう。

 

ギィ・デサップはなぜ絵を描くか

画家の方に「なぜ画家を目指したのですか?」と訊ねると、わずかの戸惑いの後に、たいていはこのように返ってきます。
「絵を描くことが好きで、それだけしていたら、いつのまにか画家と呼ばれていた」
「他の仕事をしたいと思ったことがない。できるとも思えない。絵を描くことならできた」
「得意なのは絵を描くことだけだった」
来日時にインタビューさせていただいたところ、デサップさんも同じように回答しました。

 


作品制作風景
デサップさんのアトリエにて

「私が画家になれた理由? それは簡単です。絵を描く以外のことは何もしたくなかったし、実際にほかのことは何もしなかったからです。子どもの頃からずっと絵を描いてきましたが、飽きたとか嫌だとか思ったことがありません。80歳を超えた今でも、毎日キャンバスに向かって絵を描いています。アトリエの外に出ると、ほかに何をしていいかわからないのです。いま私は日本で個展を開催しているので、来日して一週間になりますが、もうすでにフランスのアトリエに戻って絵を描きたくなっています。本当に絵を描くのが好きなんです。私は若い頃ヴィンセント・ヴァン・ゴッホが大好きで、彼の本を読みました。弟のテオがヴァン・ゴッホに宛てた手紙に、こう書かれていました。『本当に画家になりたいなら、四六時中、絵のことだけを考えるべきだ』と。私はその言葉にとても共感して、紙に書いて自室のドアに貼りつけました。いつでもその言葉が目に入るようにしたのです」


作品制作風景
デサップさんのアトリエにて

ギィ・デサップさんは、まさに画家として生まれついたのでしょう。
しかし、同じように絵を描くことが好きでも、絵で生計を立てることの難しさに、画家を諦めた人だって世の中にはいるはずです。
その人たちとデサップさんとの違いはどこにあったのでしょうか。絵を好きだと思う気持ちにわずかな差があったのでしょうか。それとも画家になれた人は、ただ単に運が良かったのでしょうか。あるいは、愚直に続けることができたからでしょうか。
その答えは、画集を読んでいただければわかるでしょう。

デサップさんには、運も味方しましたが、その運をつかむだけのチャンスを自らひらくことも怠っていませんでしたし、何よりも絵のことだけをずっと考えて実践してきた努力家でもありました。
デサップさんは次のように語ってくれました。

 

「フランスで画家として生きていくのは難しいことです。キャンバスに描いた一枚絵というものは、あまり売れるものではありません。それに対して、絵を描くことが好きな人はたくさんいます。私の子どもたちも絵を描きます。2人とも才能があって上手です。しかし、画家として生きていけるかどうかはわからない」

 

 

世界各地を旅したギィ・デサップ

風景画家としてのギィ・デサップは、若い頃に世界各地を旅して数多くのスケッチをものしたことが基礎となっています。
フランスに生まれたデサップさんが、初めて外国で暮らしたいと考えたのは15歳のときです。場所は、当時はまだフランスの植民地だったアフリカ大陸のアルジェリアです。
考えるだけでなく実行に移してしまったところが、ただものではありません。

 

「高校生のときにアルジェリアがフランスに対して独立戦争を始めたのですが、アルジェリアに降下するフランス軍のパラシュート部隊の兵士がとてもかっこよく思えて志願したことがあります。パラシュートで飛んでみたかったのです。しかし、問題が一つありました。16歳以上でなければ兵士になれないのですが、当時の私はまだ15歳でした。そこで、友達に親のふりをしてもらって書類を偽造して応募しました。この件でまた母にたいへんな心配をかけました。悪いこととはわかっているのですが、やりたいと思ったことはすぐにやらないと気が済まないのです」

 

「絵を描くことしかできなかった」とデサップさんが語るとき、一緒に付け加えられるのは「学校の勉強は好きではなかった」という言葉です。
その言葉どおり、デサップさんは高校を途中で退学して、美術学校に入学しています。イラストレイターやデザイナーなど、絵を描く職人になろうとしたのです。
しかし、結果としてデサップさんは就職しませんでした。その代わりに、18歳から20歳までの2年間、兵役でモロッコに駐屯しました。
兵役とはいえ、給料はもらえますから、期限付きで就職したようなものですが、それでもう組織で働く気をなくしてしまったのです。

兵役を終えてフランスに帰国したデサップさんは、崇拝するヴァン・ゴッホが憧れた南仏のアルルに移住して絵を描き始めます。
ちょっと若気の至りっぽい行動ではありますが、このような経験の積み重ねがいまのデサップさんを形づくっています。

 

「当時の私には、ゴッホの魂が乗り移っていたと思います。しかし、あまりにもヴァン・ゴッホになりきって、自分がわからなくなってきたので、一年後にアルルを離れることを決意しました。新しい住処として選んだのはアルルから180kmほど東にある、サン・トロペという港町です。アルルと同じく暖かい南フランスに位置していましたが、ビーチ・リゾートとしても有名なサン・トロペは華やかな雰囲気があって、アルルとは空気が異なっていました。サン・トロペに移住したことで、私はようやくヴァン・ゴッホの幻影から解放されました」

 

 

サン・トロペでデサップさんは中古の救急車を格安で購入して、その中で寝泊まりするとともに、ヨーロッパ大陸全土を旅して回りました。
ポルトガル、スペイン、イタリア、オーストリア、ドイツ、スイス、スウェーデン、オランダ、ベルギー……中でもデサップさんが特に気に入ったのが、水の都として知られるイタリアのヴェニス(ヴェネツィア)です。
サン・トロペとヴェニスは、後に定住したニューヨークとともに、デサップさんの心の故郷になりました。
ヴェニスでの数奇なエピソードを知りたい方は、ぜひ画集をご覧になってください。
『ギィ・デサップ パリを描く現代の印象派』は出版社パブリック・ブレインより全国各地の書店にて好評発売中です。

 

 

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