アートコラム

ゴッホの絵にかけられた贋作疑惑?(1)

2017/10/13

何千万円、何億円もの値段がつく、有名画家の油絵には、贋作がつきものです。贋作を作って、真作と偽って売ることができれば、原材料と手間から考えたら信じられないほどの低コストで、大儲けができるからです。特に近代絵画は、作品の管理が甘く、キャンバスや絵具の偽造もしやすいことから、贋作が多くなっています。その時代にはない絵具が使われていたなど、科学的な鑑定は真贋の判断に効果的ですが、同時代に作られた精巧な贋作を見抜く術はあるのでしょうか。今回は、あのゴッホの絵の贋作疑惑についてご紹介します。

 

2000年、ミステリー業界で最も権威があるとされる日本推理作家協会賞を受賞した、1冊の評論があります。その名は『ゴッホの遺言~贋作に隠された自殺の真相』。著者は、東京芸術大学を油画専攻で卒業し、画塾などを経営しながら芸術活動を続けてきた小林英樹さん。小林さんはあるとき、オランダのファン・ゴッホ美術館に所蔵されているゴッホの「寝室」のスケッチが、とうてい本物にはほど遠い稚拙なものであると感じます。それが贋作であることを丁寧に証明し、なぜそのような事態が放置されているかを推測したのが、この本の元になった手記です。

 

小林さんは、友人の勧めで原稿を大手出版社に送りますが、軒並み書籍化を断られ、ようやく情報誌センター出版局なる出版社から刊行されたのが1999年のことです。その本が、2000年に日本推理作家協会賞の評論その他の部門で受賞して、話題になって売れたことで、小林さんの生活は変わりました。愛知県立芸術大学の教授に招聘されて、日本のゴッホ研究者の一人として認められるようになったのです。日本推理作家協会賞の選考委員から認められたことでもわかるように、本の内容はめっぽう興味深いものでした。

 

前半では、問題のスケッチをゴッホが描いたにしては稚拙すぎることを徹底的に証明する一方で、後半では、それを描いたのは誰なのか、何のために捏造したのかを、ゴッホの手紙と周辺資料から推理していきます。
このとき、小林さんが論拠としたのが、ゴッホの最後の作品とも類推される「ドービニーの庭」でした。「ドービニーの庭」には、スイスのバーゼル美術館に所蔵されているものと、それをゴッホ自身が模写したものとの2枚があり、後者はひろしま美術館に所蔵されています。小林さんは、オリジナルの庭にいる黒猫が、模写版では描かれていないことを「ゴッホの遺言」ではないかと想像して、推理の根拠としました。しかし、出版後、2008年の調査によって、ゴッホ自身は黒猫をきちんと描いていたが、後に別人の手によって消されていたことがわかりました。ゴッホの死後のオークションのカタログの写真には、はっきりと黒猫が写っていたからです。

 

この発見を契機に改稿されたものが、2009年に文庫として出版された『完全版 ゴッホの遺言』です。小林さんの推理の一つは崩れましたが、「寝室」のスケッチが贋作であることの記述は、今もなお輝いています。しかし、小林さんの再三の訴えにもかかわらず、ファン・ゴッホ美術館は、スケッチが真作であることを譲ろうとはしません。はたして、正しいのはどちらなのでしょうか。

 

その後も、小林さんは著書で、「寝室」のスケッチにとどまらず、自画像や肖像画など、その他のゴッホの作品にも疑惑を投げかけています。2011年に、再び情報センター出版局から刊行した『「ゴッホ」にいつまでだまされ続けるのか―はじめてのゴッホ贋作入門』は、それまでに小林さんが発見した贋作疑惑を1冊にまとめたものです。そこではなんと、1987年に安田火災海上が、当時の絵画取引最高額となる約58億円で落札した、東京の「ひまわり」の絵が贋作ではないかと述べられています。それどころか、東京の「ひまわり」以前に日本に存在していたもう1枚の「ひまわり」―-戦災で焼失した芦屋の「ひまわり」の絵まで、贋作の疑いがあると言うのです。もし、それが真実だとしたら、大変なことです。いったい、あの「ひまわり」のどこが贋作だというのでしょうか?

 

 


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