アートコラム

美術商は贋作にどう対処しているか

2021/04/14

過去数年間にわたって、著名日本画家の偽版画が百貨店などを通して販売されていたことが発覚し、美術業界を揺るがせています。
業界団体の日本現代版画商協同組合は、犯人と目されている大阪の画商を除名処分にして、業界一丸で問題に対処することを発表しました。
今回見つかったのは、平山郁夫、東山魁夷、片岡球子など、市場価格の高い人気作家の贋作でした。
私たち翠波画廊でも取り扱っている作家なので他人事ではありません。
今回は贋作取引を防止する方法についてお話しします。

 

真贋鑑定をする方法

バンクシー
《愛はゴミ箱の中に》

私たち画商の仕事は、お客様に間違いのない本物の絵画を届けることです。
本物とは何かといえば、画家本人が自分の作品であると認めた絵画のことです。
ですから、ジェフ・クーンズや村上隆のように、工房などでスタッフを使って描いた絵画もありますが、最終的に画家本人が自分の作品のクオリティがあると認めてサインすれば、それは本物と見なすことができます。
逆に、その画家が描いたものであろうと目されていても、本人や著作権者が否定すれば贋作という扱いになります。
かつて、ジョルジョ・デ・キリコは過去に描いた作品の質を不満に思ったのか「あれは贋作である」と主張しました。裁判でその主張は否定されたのですが、もちろんその絵は表に出てこなくなりました。
東京都の防潮扉で見つかったバンクシーのネズミの絵も、バンクシーの作品集に残された写真と一致するようですが、バンクシー本人が本物だと認めないために、何となく中途半端な扱いになっています。
バンクシーには作品の認証機関ペストコントロールがあるのですが、この機関は「合法的なアート作品のみを取り扱い、いかなる違法行為にも関与しない」ため、街中に残された作品については絶対に真作認定をしないのです。

 

では、どうすれば真作を手に入れることができるのか。
最も確実なのは、画家本人やその画家が契約している画廊から直接購入することです。
しかし、物故作家や人気作家ともなると、そのようなプライマリー(一次)市場で作品を入手することは困難です。
私たちのような画廊でも、その画家が特定の画商と専属契約を結んでいれば、作品を直接購入することはできなくなります。

 

オークション風景
※画像はイメージです

そこで、たいていの人は、セカンダリー(二次)市場で作品を入手することになります。
セカンダリー市場とは、コレクターなどが手放したために再び作品が世の中に出て売買された場合のマーケットです。
家電や書籍など大量生産品の場合は中古やリサイクルと呼ばれますが、美術品の場合はセカンダリーと呼びます。
美術品の最も有名なセカンダリー市場はオークションですが、それ以外にも個人の方からの買い入れや、美術商同士の交換会などがあります。
翠波画廊で販売している作品は、3割が画家からの直接取引(プライマリー)で、7割が海外の画廊や交換会や個人のお客様などからの仕入れ(セカンダリー)になります。

 

1904~1972年の版画三巻とセラミック
一巻に作品を網羅したブロック編纂の
ピカソのカタログレゾネ。

セカンダリー市場で入手した作品の場合、真作であるかどうかの鑑定が重要になります。
油絵や水彩など肉筆の場合は、たいてい鑑定書が付いています。

しかし、この鑑定書自体を偽造することも可能であるため、私たち翠波画廊では、必要に応じて鑑定書を発行した鑑定機関に問い合わせをして、鑑定書の真贋を確認しています。
もし鑑定書が付いていなかった場合も、その作家の鑑定機関に真贋鑑定をしてもらって、鑑定書を発行してもらいます。
お客様に安心と安全をお届けするためには当然のことだと思っています。
もちろん、鑑定書だけに頼るのではなく、目で見て怪しいところがないかどうか、また来歴などに不自然な点がないかどうかなど、プロとしての目線でのチェックもしています。
数多くの本物を見てきていれば、贋作の持つ微妙な違いに気づけるようになるからです。
ところが、今回の事件で問題になったのは版画でした。
一般に版画の場合は鑑定書が付いていないため、真贋鑑定が難しいのです。
翠波画廊では、画家が生前に制作した版画の総目録(カタログレゾネ)のデータに照らし合わせをしたり、シート裏に油じみが出ているかどうかで経年を経たものであるかどうかを見たりしていますが、このような版画の見方を知らない人も多いでしょう。

 

贋作を許さない土壌作りを

▲パリの伝統あるリトグラフ工房
イデム・パリ工房(旧ムルロー工房)

そもそも版画とは何かといえば、複製を前提として作られる絵画です。
ほとんどの方は小学校の図工の時間に木版画を作った経験がおありでしょうから、原版を制作して、その図像を紙に写しとる木版画の工程については理解していると思います。
ただし、版画には木版画だけでなく、さまざまな種類があり、大きく4つに分けることができます。
一つは、木版画のように原版を彫って、彫り残した部分にインクを乗せて転写する凸版画。
一つは、銅版画のように原版を削って、削った部分にインクを乗せて転写する凹版画。
一つは、石版画(リトグラフ)のように、石やアルミ板に油性の画材で絵を描いて、そこに水性のインクを乗せて転写する平版画。
一つは、シルクスクリーンのように、インクが通過する穴を空けて転写する孔版画です。
版画が生まれた理由は、一人の画家が描ける絵画の枚数には限りがあるからです。
より多くの人が画家の作品を所有して飾ることができるようにと版画が作られました。
しかし、いくらでも刷れるからと無数に同じ作品を制作して、供給が需要を上回ると値崩れが起きてしまいます。
そのため、画家は版画を制作するにあたって、刷り部数を厳格に制限しています。
ですから、通常、版画にはエディションとよばれる番号が入っています。250部制作した版画であれば、100 / 250などと、分数のかたちで記載されています。
ただ、分数のかたちで限定数を入れるようになったのは割と近年のことで、古い版画には限定数もサインもない場合もあります。
また、原版が残ってしまうと新たな複製品が作られてしまうため、限定部数の決まった版画の場合、予定した部数を刷り終わると原版を廃棄して、複製ができないようにしています。

 

版画の技法について 詳しくはこちら >>

 

今回、偽版画が作られたのは、版画には鑑定書が存在しないため、原画に比べれば真贋判定が厳密に行われない傾向があるからでしょう。
同じ作品が市場に複数枚流通していても不自然には思われない版画の特性も、贋作には好都合でした。
また、版画は肉筆に比べて工程が複雑であるため、職人が介在することが多くなります。
たとえば、浮世絵では絵を描く絵師と、原版を彫る彫師と、刷りを担当する摺師とがいたことが知られています。
リトグラフでは、原版に直接絵を描くため、職人の介在が少なくなりますが、それでも何百枚もの版画を刷るには助力が必要でした。
今回の事件でも、偽版画の制作には、版画の制作や修復を行う工房が関与していたことがわかっています。
工房の職人はメディアの取材に対し「贋作を作るつもりはなかった」と話しています。
版画には、画家本人が原版制作に関与するオリジナル版画のほかに、画家本人や著作権者の許諾を得て、画家の描いた絵から職人が制作するエスタンプ版画があります。
工房の職人は「ライセンス(著作権者の許諾)があると思っていた」と語っているため、エスタンプ版画のつもりで作っていたのかもしれません。
しかし、実際には著作権者の許諾がなく、犯人と目されている大阪の画商は、画家のサインを入れていたので、明らかに悪意が感じられます。

 


▲藤田の鑑定家であり美術史家、
藤田嗣治研究の第一人者シルヴィ・ビュイッソンさんと。

そもそも美術品の贋作は古くから作られています。
ローマ時代に権力者の間でギリシャ時代の美術品を収集することがはやりました。その時代にギリシャ彫刻の贋作が多く作られたらしいのですが、それが今ではギリシャ時代の彫刻として世界中の美術館に紛れ込んでいるそうです。
とはいえ、贋作が発生すると、版画全体に対する信頼が下がり、版画を取り扱う画商や百貨店といった流通業者だけでなく、版画制作工房も、版画を好きで購入しているお客様も、版画家も含めて、版画にかかわるすべての方に迷惑がかかります。
なぜか美術品・骨董品業界には昔から「偽物を見抜ける目利きが偉くて、騙されるほうが悪い」という空気があるので本当の美術商は目利きになるべく勉強しますが、社会の常識では「騙すほうが悪い」に決まっています。
真摯に商売をしている画商のためにも、贋作制作に対する厳罰化など抜本的な対策が必要だと感じます。

 

 

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