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美術館は赤字が当たり前?
~文化庁が作成した資料「アート市場の活性化に向けて」を読み解く

世界三大美術館に数えられることもあるニューヨークのメトロポリタン美術館。この美術館は入場料が定額ではなく寄付制で、貧困層や苦学生でも無料で鑑賞できることで知られていました。しかし、2018年3月から制度が変更になり、大人1人につき25ドルの定額制に変わりました。その背景には同美術館の大幅な赤字体質がありました。アメリカで一、二を争う有名美術館ですら、赤字に苦しんでいるのです。実は、自己収入だけで成立する美術館は世界中を探してもほとんどありません。なぜ美術館は赤字になってしまうのでしょうか?

 

2018年の文化庁の資料「アート市場の活性化に向けて」によれば、国立美術館の自己収入割合は約3割。残りの7割は交付金や補助金によるものです。この自己収入割合は、あのルーヴル美術館でも45%、大英博物館でも51%しかありません。単純に考えれば、美術館が事業収入だけでやっていくなら、入場料を2倍にする必要があります。ということは、そもそも美術館は、赤字覚悟の道楽か、補助金を当てにした公的事業でなければ、成り立たないのかもしれません。そこまでして維持存続させる理由は、美術館が「社会教育施設」で、公共の福祉に役立つものだとされているからです。日本の「博物館法」では、美術館を含む博物館というものを「資料を収集し、保管し、展示し、調査研究をする」機関だと位置付けています。展示だけでなく、収集や保管や調査研究もメインの目的なので、展示事業にはそれほど力を入れていないと見ることもできます。美術館の関係者も収集や調査研究のために補助金を得ることを是として、事業収入を増やすことには興味を示していないように見えます。美術館にハイソな雰囲気とエリート風味があるのは、そんな理由もあるのでしょう。

 

ところが、2018年5月の読売新聞の「先進美術館」報道が、そんな美術館業界を叩き起こしました。なんと政府が一部の美術館を「リーディング・ミュージアム」に指定し、永続的に収蔵する必要のない作品を積極的に購入、売却することで、美術品の二次流通を促進させ、アート市場を活性化させる構想があるらしいのです。美術館に市場原理を持ち込むようなこの構想に対して、全国美術館会議はわざわざ声明を発表して強く批判しました。その内容は次のようなものです。「美術館はすべての人々に開かれた非営利の社会教育機関である。美術館における作品収集や展覧会などの活動が、結果として美術市場に影響を及ぼすことがありうるとしても、美術館が自ら直接的に市場への関与を目的とした活動を行うべきではない」ネットの一言居士たちも少なからず反応しました。美術館は作品の保存が目的であって売却を前提とするのはおかしいとか、美術館にそんなビジネス感覚をもった人材はいないとか、そういった論調が多いように見受けられます。「ハイソ」な美術業界が、「下賤」なビジネスと結び付けられることに対する感情的な反発と受け取れるものもありました。

 

私たち画商は、美術業界に身をおきつつも、ディーラーとしてまさにビジネスを行っているので、政府の構想に対してはやや複雑な気持ちがあります。まず「アート市場の活性化」という目的に対しては、全面的に大賛成です。業界自体の浮沈にかかわることですから、美術業界で反対する人は少ないと思います。それに対する方策として、一部の美術館が積極的に購入や売却をするというのも、そこに画商がディーラーとして絡めるのであれば、有難いことに間違いありません。構想にあった税制優遇によって、個人コレクターが所蔵している作品が美術館に寄贈されることが多くなり、それが市場に出てくるのであれば、作品の流動性も高まります。日本は富裕層(資産100万ドル以上)の数が世界2位、GDPが世界3位であるにもかかわらず、美術品市場の世界におけるシェアがわずかに3.6%なので、市場に成長の余地があるとする論理にも頷けます。政府はすでに、「アート市場活性化事業」として2018年度に5000万円の予算を確保したそうですから、否が応にも期待は高まります。しかし美術業界からの批判を受けて、文化庁は「あくまでも検討段階」、「美術館が所蔵作品を売却するということを推進する意図はない」などと、トーンダウンした応答をしています。

 

たしかに、美術業界からの批判の中には、傾聴すべきものもあります。例えば、海外の美術館が新たな作品を購入する費用を捻出するために収蔵作品を売却することはよくあるのですが、それはあくまでも作品購入費用のためであって、それ以外の目的での売却は厳しく制限されているとのことです。なぜかといえば、美術館が作品を購入することは、美術業界において作品や作家の評価付けをすることに深くかかわっているので、金儲けのために売買をはじめると、美術館の権威性が揺らいでしまうからです。後世に残していく価値のあるものとして美術館が作品を購入・保管していかなければ、美術品の価値が高まらないというのも、その通りです。だとすれば、客観的な指標としての美術館と、ビジネスをする画商とは、役割分担をしたほうがいいのかもしれません。

 

アート市場の活性化は、美術業界の誰もが望むところです。そのためにはどのような方策がありえるのか、どんな施策が効果的なのか。せっかく血税を注ぎ込むのであれば、ぜひ大勢の関係者の知恵を絞って考えていきたいものですね。

 

参考文献 「政府案の「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」とは何か? 文化庁「確定事項は何もなく検討中」」(美術手帳) 「美術作品の売買で市場活性化、文化庁の「先進美術館」構想に全国の美術館が「NO!」(オリコンニュース)

 

 


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