アートコラム

草間彌生ってどんな人?

2018/11/12

2018年4月から中国で巡回開催されていた草間彌生と村上隆の豪華二大作家の競演展覧会。この2人展で展示されていた作品が、すべて偽物だったことがわかりました。中国の美術関係者からの情報提供で判明したそうで、草間彌生記念芸術財団の抗議によって展覧会は開催中止になったそうですが、これも世界的人気のゆえの弊害でしょうか。草間彌生の作品の中には、水玉模様など、模倣するのが簡単に見えるものもあります。しかし、その裏にある芸術家の情念や魂まではコピーすることはできません。今回は草間彌生の人物像に迫ってみます。

 

2008年に劇場公開されたドキュメンタリー映画『≒草間彌生 わたし大好き』は、草間彌生の創作活動と日常を1年半にわたって記録した作品です。昨2017年にリバイバル上映されたこの映画は、知られざる草間彌生の姿を見事にスクリーン上にとらえています。映画の副題は「わたし大好き」で、草間彌生が自分の作品を褒め称えるシーンが本作のハイライトとなっています。しかし、一般的には「わたし大好き」は、あまり良い意味で受け取られません。「わたし大好き」が許されるのは、自分を責めすぎて精神を病んでしまった人の回復過程とか、自殺願望のある人が再び生きる力を取り戻す場面であり、日常生活で「わたし大好き」と公言すれば「ナルシスト」や「エゴイスト」の非難を浴びることもあります。しかし、生物に自己保存本能がある以上、「わたし大好き」は基本的な感情であり、生きてゆく力になり得ることを、この作品は気づかせてくれます。

 

本映画の中には草間彌生の「わたし大好き」を描いたシーンがいくつもあります。たとえば、草間彌生が、雑誌に掲載された自分の詩を朗読して「ステキな詩だねえ、こんな詩、聞いたことないよ。自分のやったこと、全部ステキ。天才的だね」と感心する場面。カメラを回す監督が「先生、むかしから自分のこと天才だと思ってました?」と問いかけると「うん、ものすごく思ってた、今より強く」とまったく悪びれることなく答えます。この「わたし大好き」の自信こそ、彼女を芸術家足らしめている原動力だと感じます。

 

この作品の中で、草間彌生にインタビューする監督は、何度か「失言」しています。 一つは「先生、誕生日ですね。おいくつになられたんですか?」と問いかけて「それは言えない。そういうこと聞かないでね。なんで年なんか関係あるの?」と怒られるシーン。 それから、できあがった絵に「生老病死」とタイトルを書きこんだ草間彌生に「どういう意味ですか?」と問いかけて「わかんなければ……話しかけないでくれる? 具合悪いから」と拒絶されるシーンなどです。 これを観ると、制作者は何も知らない素人のように見えますが、もちろんそんなことはありません。

 

監督の松本貴子さんは、草間彌生に出会って22年。その間に彼女のテレビ番組や映画を6本制作したプロフェッショナルです。映像を撮るために、わかりきっている質問でもあえて聞いて本人に語らせるテクニックを用いています。 しかし、通常は質問部分をカットして、最初から本人が語っているように編集するものです。ここであえて質問部分を残しているのは、おそらく、ばかげた質問を許さないアーティスト「草間彌生」の姿を描くためでしょう。

 

「最強の草間作品は“草間さん自身”」と述べる監督は、ありのままの草間彌生の姿を描くことに専念します。その姿とは、他人の視線や評価を気にせずに、ただひたすら自分のやりたいことをやり続ける芸術家の美しさです。もちろん、草間彌生だってまったく他人の評価から自由であるわけではありません。監督によれば「最初は『生きている内は無理だが、死後、必ず自分の芸術は認められる』と、受け入れてもらえない口惜しさを滲ませていましたが、やがて『世の中が、自分の思うように動くようになってきた』と自信を漲らせる」と草間彌生の言葉が変化していったのだそうです。

 

 

世の中には作品がほとんど売れないために、月収2万円で食うや食わずの生活をしている芸術家とか、絵画教室の先生で何とか生計をたてている芸術家が珍しくありません。しかし、売れる、売れないにかかわらず、それらの人もみな自分のやりたいことをやるという芸術家魂を持っています。作品が売れるかどうかとか、稼げるかどうかを気にする人は、そもそもの最初から芸術家の道を目指さないことがほとんどです。とはいえ、芸術家ではない凡人の私たちでも、他人の評価やお金から自由になった人生に憧れないことはありません。そんなときに私たちを慰めるのが、芸術の役割なのでしょう。

思い返せば、芸術の歴史とは、常にそれまでの既成のスタイルに対する反抗と、自由への闘争でした。私たちが芸術に求めるものは自由の表徴であり、草間彌生の作品には自由があふれています。幼少期に両親が不仲で、一人で絵を描いていると、苛立った母親に絵の具皿を蹴飛ばされて、一カ月かけて描いた絵が駄目になった、などといった草間彌生の思い出話を聞くと、私たちはその境遇に胸を痛め、自分にもある同じようなエピソードを想起して辛くなります。そして、不幸から立ち上がって成功への道を歩む草間彌生に共感し、その作品への愛着をいっそう高めるのです。

 

昨今、草間彌生の人気と価格は、昨今ますます上昇しています。2013年のオークションでは8万7500ドルで落札されたサムホールサイズの「黄色のカボチャ」が、2018年のオークションでは32万4500ドルで落札されたほどです。価格だけを見れば、5年間で約4倍になっています。

 

2018年9月には、アメリカ人女性監督Heather Lenz(ヘザー・レンズ)による新たなドキュメンタリー映画『Kusama – Infinity(クサマ・インフィニティ)』が全米で公開されました。この作品の日本公開も待ち遠しいですね。

 

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