【独占公開】西誠人インタビュー
~愛猫「ちょうちん」と歩んだ30年
英語で彫刻を表す言葉には、「スカルプチャー」と「カーヴィング」の二つがあります。
厳密な区分ではありませんが、金属や石を彫る大きな作品はスカルプチャー、木を素材にした繊細で細やかな作品はカーヴィングと呼ばれることが多いようです。
欧米では古くから鳥を題材にしたバード・カーヴィングが盛んでしたが、その流れを受けて日本で「キャット・カーヴィング」という新しい表現を切り拓いたのが西誠人です。
このたび、翠波画廊 東京銀座店では11月22日(土)より《西誠人 木彫展》を開催いたします。
本展に際し、猫の木彫りの第一人者、西誠人のインタビューをお届けします。
創作の原点である「ちょうちん」との出会いなど、西誠人の制作秘話をぜひご覧ください。
日本画から木彫へ転向した理由
藝大の日本画専攻を卒業後、美術の非常勤講師などしながら絵を描いていましたが、公募展も落選続きで迷いが生じてきたため、ちょっと絵から離れてみようと思ったんです。 それでも何かをつくりたいという欲求があったので、てすさびに絵のパネルに使っていた木で彫刻でもするかと試してみたところ、それが意外と気持ちよかったんですね。 紙の上で線を引くのとはまた違った感触があり、また、一度彫ってしまったら修正がきかないという潔さもあって、これなら想いを形にできるかもしれないと図書館で木彫の本を読んで独学で始めました。
最初に彫ったのはスニーカーでした。それまでは紙の上でしていたデッサンを3次元の木の上でおこなうつもりで、本物の質感やよれ具合を再現することを目指しました。 なぜスニーカーだったかというと、ちょっとポップアートを意識して、自分が今まで歩いてきた年月を形にするという意図です。 とりあえず身の回りのものを木で彫り始めてみました。
そのうち動物も彫ってみたいと思ったのですが、動物の毛はすごく細いので手元にあった彫刻刀だとうまく彫れなかったのです。 動物の木彫りといえば高村光雲の《老猿》が有名ですが、あれは高さが1メートル以上あるので彫刻刀でも毛並みが再現できるのであって、私がやろうとした小さい彫刻ではきれいに溝が彫れない。 それで一度は諦めていたのですが、ある展示会で、素晴らしいデコイ(狩りで囮に使う鴨の彫刻)を見たのです。 それは一つひとつの羽毛を羽軸の細かい筋まで彫ってあって、こんなことができるんだと驚かされました。 それ以来、どうやったらあんなふうに彫れるんだろうと考え始めました。
そんなある日、たまたま東急ハンズで見つけたのがバーニングペンです。 バーニングペンは木を削る彫刻刀と違って熱で木に線を刻む電熱ペンで、細くて柔らかい線が出せるのです。 当時はバード・カーヴィング(鳥の彫刻)用として売られていました。 いま私のキャット・カーヴィングはすべてバーニングペンで毛を彫って、そのうえに細筆で絵具を乗せています。
なぜ猫を彫り始めたのか
猫を彫り始めたきっかけは、忘れもしない1994年5月8日の運命的な出会いです。
その日、遊びに来ていた友人をアパートの外まで見送って、さあ帰ろうと踵を返したときに足元に子猫がいたんです。それまでまったく気配すらなかったのに。 当時のアパートはペット禁止だったので、しばらくどうしようかと迷っていたのですが、(来るか?)と心の中で聞いたら、子猫は立ちあがって私よりも先にアパートの階段をピョコピョコと上り始めました。 で、扉を開けたらすぐにシュッと入って、「ここに決めたからね」と告げるように、ちっちゃいクッションに丸まって寝始めた。 それを見ているうちに、そういえば動物を彫りたいと思っていたなと寝姿のスケッチを始めたら、すごく暖かい感じがしてきて、これはきっと子猫が「私を彫りなさい」って家に来たんだと思ったのです。
来た当初に風邪を引いていて、寝ながら鼻ちょうちんをふくらませていたので「ちょうちん」という名前をつけた子猫ですが、これが本当に幸運の招き猫でした。 それまでは個展を開いても友達が来て「このスニーカーすげえな、臭いがしそうなくらいリアルだな」と、すごく褒めてはくれるのですが、買ってはくれませんでした。 ところが猫の彫刻で個展を開いたところ、新聞社が来て記事にしてくれて、完売にはならなかったものの7割がた売れたんです。 それで、スニーカーとか帽子とかは技術を習得するための練習で、自分は猫を彫る運命だったんだなと思いました。それからはちょうちんとの二人五脚で様々なポーズの猫たちを彫り続けて28年(インタビュー当時)になります。
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公募展でグランプリを受賞
ちょうちんが来て変わったのは個展の売れ行きだけではありませんでした。
ちょうちんがうちに来た年から始まった全国公募展「木彫フォークアートおおや」に応募したところ、1995年の第2回グランプリを受賞しました。
受賞作品の《エスケープ》は、エッシャーの絵画に影響を受けたもので、本の挿絵の猫がページから飛び出て立体化する模様を彫ったものです。
現在も、兵庫県養父市大屋町の木彫展示館に飾られています。木彫展示館を紹介するユーチューブ動画「行ってみ!木彫展示館」の5分30秒くらいから紹介されているのでぜひご覧ください。
行ってみ!木彫展示館
そのほか、藤沢市アートスペースの「招き猫亭コレクション」、北鎌倉古民家ミュージアム、川崎市にある猫のミュージアム「ラッキー・フィールド」私の作品が所蔵されています。もし立ち寄ることがあったら探してみてください。 藤沢市アートスペースの「招き猫亭コレクション」は、歌川広重や藤田嗣治など猫の美術作品を長年蒐集してきた招き猫亭氏のコレクション450点が寄贈されたものです。定期的に企画展が開催されているようですが、いつでも見られるかどうかはわからないので、出かける前にそれぞれの館にお問い合わせいただければ幸いです。
運を呼び寄せる西家の招き猫たち
(左から)ちょうちんとトガリ先ほどお話したとおり、私が猫を彫り始めるきっかけは、野良のメス猫「ちょうちん」が猫の手を貸しに来てくれたことでした。 ちょうちんは体には縞模様がなく手足にだけあったので、私は勝手にキジトラとアビシニアンのミックスだと考えていました。 背筋の色が濃くなっているだけの単色だったので、まるで「模様のことは気にせず猫のかたちをとらえる練習をしてね」と言ってくれているようでした。
ちょうちんと出会ってから3年後、我が家に2匹目の子猫がやってきました。 今回も道で出会った子猫で、結膜炎がひどくて完全に目がふさがっていたサバトラ白ブチのオス猫でした。 病院に向かう道中、ちょうちんが受け入れてくれるか気がかりでしたが、心はすでに一緒に暮らすと決めていました。 この子は鼻筋がとがっていたので「トガリ」と名づけました。ちょうちんとは違って背中に大きな模様があって、それがひらがなの「と」にも見えました。 ちょうちんで十分にかたちの練習をしたから「今度はボクで模様の練習をしなさいよ」と、彼も猫の手を貸しに来てくれたのです。 悔しいことに8才9ヶ月で虹の橋を渡ってしまいました。
3匹目は、私が木彫りを教えている生徒さんが保護したキジトラです。 「うちでは飼えないので」とお願いされたのです。 その生徒さんは「にゃん太」と呼んでいたので、アナグラムで「ターニャ」と命名しました。 ロシアの女性の名前みたいですが、オス猫です。
4匹目は三毛のメス猫です。真夏に保護した三毛猫なので、最初は「なつみ」にしようかと思ったのですが、ちょっとひねって「つなみ」にしました。 2010年のことです。最初は動物病院でも「かわいい名前ですね」と言われていたのですが、その半年後に東日本大震災が起きてから、しばらくは大きな声で言えない名前になってしまいました。 ちょうちんは23歳まで長生きしてくれましたが、5年前(インタビュー当時)に亡くなりました。トガリも早くに亡くなっているので、今はターニャとつなみの2匹がモデルになってくれています。
木彫作家として生きていくために
(上から)つなみとターニャときどき若い人から「どうやったら作品が売れますか?」という質問をされます。 努力するのはもちろん大事ですが、一つのことに固執するのではなく、自分がやりたいことを見つけるために、いろんなことをやってみたほうがいいと思います。 そのときは違う道に進んだように感じるかもしれませんが、後から振り返ったときに、実は道がつながっていたと気づくことでしょう。
私自身は日本画から始まって、粘土造形や木版画を経て木彫を始めました。 日本画の経験はデッサンや彩色の筆使いを、粘土は立体の捉え方を、木版は彫刻刀の動かし方を教えてくれました。 ちょうちんたちとの出会いも、キャット・カーヴィングを創出できたのも、初出品の公募展でグランプリを受賞できたのも、こうした流れがつながったからです。 どんな表現方法であれば自分の想いを形にできるのかを探してここまで来ましたが、一番大切なのは「好き」を持続することです。 「好き」であれば苦労と感じずに続けられるからです。自分の「好き」を保つために、とにかく手を動かし続けることが大事です。
幸せの招き猫をあなたに

猫っていうのは、好きな人にとっては究極の癒しです。 また、造形的に見ても耳が三角で、顔が丸くて、体が四角くてと、三拍子そろっているところも魅力的です。 それなのに抱き上げたりすると餅のように伸びたり、箱にいれると液体のようにとろけるところもかわいい。
昔、展示会にいらっしゃったお客様から「私は猫は苦手で見るのも触るのも嫌なんだけど、あなたの猫はとてもかわいいわね」と言われたことがあって、それはうれしかったですね。 また、以前に大切な愛猫を亡くされたというお客様から、写真をもとにその猫の木彫りを作ってほしいというオーダーがありました。お手元に届いたとのお電話で「うちの子が帰ってきました」と涙ながらにおっしゃっていただいたときには、作家冥利に尽きると思いました。 人の感覚は千差万別ですが、私がいいと思ったものを同じようにいいと思ってくださるたくさんのお客様に支えられて今日まで来られました。本当にありがたいことです。 私にとって猫たちは天から与えられた招き猫として、本当に幸運をもたらしてくれました。現実の猫や彫刻の猫が、あなたにも幸せを招いてくれるよう祈っています。 猫たちから与えられたやすらぎや癒しを作品に込めて、いろんな方へお届けできるようにこれからも励みます。
《西誠人 木彫展》
翠波画廊 東京銀座店
11月22日(土)~12月6日(土)
作家来場販売会:11月22日(土)、29日(土)
開催時間:13:00~17:00
★実演イベント開催決定★
11月22日(土)
開催時間:15時頃開始
《西誠人 新入荷作品のご案内》

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