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マン・レイ《アングルのバイオリン》などの価格が上昇中
~写真オークション落札価格ランキングTOP10
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マン・レイ《アングルのバイオリン》1924年(1240万ドル)

2022年5月14日、マン・レイの写真《アングルのバイオリン》のオリジナルプリントが、写真史上最高額となる1240万ドル(約16億円)で落札されました。
それまでの記録が2011年に落札されたアンドレアス・グルスキー《ラインII》で434万ドルだったので、3倍近くに跳ね上がりました。
ご存じのように写真というのは、制作にあたって絵画や彫刻ほど時間がかかりません。また、大量に複製が可能であるため希少価値も少ないと思われています。そのため、写真は芸術作品としての価値をなかなか認められませんでした。
近年その潮目が変わってきています。
ほとんど劣化がなく複製が可能とはいえ、デジタルデータに比べれば古びてしまうため、アナログの写真の価値が見直されるようになりました。
その結果として、芸術写真の先駆と言われるマン・レイ《アングルのバイオリン》に1240万ドルもの価格がついたのです。

アングルはフランスの大画家

ドミニク・アングル《ヴァルパンソンの浴女》1808年

そもそも《アングルのバイオリン》は、どのような作品なのでしょうか?
写っているのは、裸の女性の後ろ姿です。女性の肩から腰にかけてのくびれと尻のふくらみをバイオリンの胴体に見立てて、そこにf字孔を描いています。
このf字孔はモデルの身体に直接描かれたものではなく、撮影したヌード写真の上に描いたものです。それを再撮影したのが作品《アングルのバイオリン》です。
実はこの「アングルのバイオリン(Le Violon d’Ingres)」という言葉は、フランスの慣用句でもあります。フランスの大画家ドミニク・アングルが趣味のバイオリンをとても上手にこなしたことから、「本業ではないけれども上手な趣味」のことを「アングルのバイオリン」と言うようになったそうです。
マン・レイは「写真は本業ではない」と言いたかったのでしょうか、それとも被写体の彼女が「モデルは本業ではない」と言いたかったのでしょうか。
ちなみに、この作品はアングルの有名な絵画《ヴァルパンソンの浴女》のイメージも借りています(頭に巻いた布が同じです)。

モデルのキキはマン・レイの恋人

《アングルのバイオリン》は、二重の意味を内包する、ユーモアの感じられる作品です。
ただの写真ではなく加工してあるところや、女性モデルの裸体の美しさなど、評価ポイントはいくつもあります。
しかし、この作品がここで高額で落札された理由を知るには、作品そのものだけでなく、当時の時代背景や作者に対する理解が欠かせません。
アメリカで生まれたマン・レイは、ニューヨークに移住してきたマルセル・デュシャンと1915年に出会い、一緒にニューヨーク・ダダの運動を始めた画家でした。
さらに1921年、マン・レイは、エコール・ド・パリ全盛期のフランスに渡って写真家として活動を始めます。
エコール・ド・パリ(パリ派)は、エコール・ド・ジュイフ(ユダヤ派)と呼ばれるほどユダヤ人の多い集団でした。シャガールもモディリアーニもキスリングもユダヤ系です。実はマン・レイも両親がユダヤ系ロシア人の移民なので、ユダヤ系です。本名のエマニュエル・ラドニツキー(Emmanuel Radnitzky)を縮めてMan Rayと名乗ったのです。
パリに来たマン・レイは、ダダから発展したシュルレアリスムの運動にも加わります。1925年の第一回シュルレアリスト展には、ピカソやミロやキリコらとともに参加しています。
このように、マン・レイは20世紀初頭の芸術運動の最先端で活躍した写真家でした。
また、《アングルのバイオリン》被写体となったアリス・ブランは、「モンパルナスのキキ」と呼ばれた伝説のモデルです。歌手や女優や画家としても活動したキキは、当時のパリの芸術家たちのミューズ(女神)でした。藤田嗣治やキスリングやモディリアーニやコクトーなど、エコール・ド・パリのそうそうたる画家たちが、キキをモデルに絵を描きました。

藤田嗣治《寝室の裸婦キキ》1922年

モイズ・キスリング《モンパルナスのキキ》1925年

なかでもマン・レイは、プライベートでもキキのパートナーとなり8年間の歳月をともに過ごしました。マン・レイとキキは、当時のモンパルナスで最もセレブなカップルでした。
実験映画『Le retour à la raison』なども含めて、当時のマン・レイの作品の多くにキキが登場しています。

Le retour à la raison, Man Ray, 1923

戦火に翻弄された芸術家たち

しかし、何事にも終わりがあります。
1929年にマン・レイとキキの関係は解消されました。マン・レイは後に戦争報道で有名になる女性写真家のリー・ミラーと付き合いはじめ、一方、この年に「モンパルナスの女王」に選出されたキキは、名声のピークを迎えていました。
その後の2人の人生は、世間的には下り坂に見えます。
マン・レイから写真の撮影技術を教わったリー・ミラーは写真家として自立して、3年でマン・レイのもとを去りニューヨークに戻りました。
マン・レイは新たな恋人と付き合い始めましたが結婚はしませんでした。彼がこれまでのパートナーのいずれとも結婚しなかったのは、パリに来る前にすでに結婚していたからです。マン・レイが妻と正式に離婚したのは、別居から18年後の1937年のことでした。
1939年に第二次世界大戦が始まると、マン・レイも戦火を避けてアメリカに戻りました。戦後、二度目の結婚をしたマン・レイは、ロサンゼルスに落ち着き、写真にとどまらず絵画や彫刻やコラージュやアサンブラージュなど、さまざまなアート制作を行いました。
60歳を超えてから再びパリに戻ってスタジオを構え、1976年に86歳で亡くなるまでパリに住みました。マン・レイにとって、パリ時代こそが人生の頂点だったのでしょう。
一方、キキは戦争中に反ナチス活動を行って当局に睨まれたため、故郷のブルゴーニュに逃れます。戦後はパリに戻りますが、仕事が見つからず麻薬の密売に手を染めて逮捕されます。執行猶予がつきましたが、病に侵されて1953年に51歳で亡くなりました。
ピカソや藤田やキスリング、マン・レイやヘミングウェイに囲まれたキキの栄華は、短編アニメ映画『モンパルナスのキキ』で見ることができます。

MADEMOISELLE KIKI ET LES MONTPARNOS – Court métrage d’Amélie Harrault – Animation (film complet)

マン・レイの油絵はさらに高額

マン・レイ《白と黒》1926年(313万ドル)

写真作品は価格が上昇してきたとはいえ、制作に長い時間がかかる絵画や彫刻に比べるとやはり相場価格は低くなりがちです。
マン・レイの場合も例外ではありません。
今回、《アングルのバイオリン》は1240万ドルという記録的な落札価格になりましたが、他の写真作品、たとえば白い肌のキキと黒いアフリカの仮面とを対比させた《白と黒》は、2017年の落札では313万ドルでした。それでも写真作品として歴代ベスト20に入ります。

マン・レイ《プロムナード》1916年(588万ドル)

一方、パリに来る前のニューヨーク・ダダ時代のマン・レイがキャンバスに描いた油絵作品《プロムナード》は、2013年に588万ドルで落札されています。
《白と黒》のほうが美的価値は高そうですが、やはり一点ものの絵画にはそれだけ価値を感じる人が多いのでしょう。
実際、歴代の写真作品の落札ランキングを見ると、1位《アングルのバイオリン》と2位《ラインII》を別にして、ほとんどが300万ドル台の落札にとどまっています。
シンディ・シャーマンやリチャード・プリンスといった人気作家であっても、400万ドルの壁を超えるのは楽なことではないようです。

写真オークション落札価格ランキング(2022年6月現在)

1.マン・レイ《アングルのバイオリン》1240万ドル(2022年)
2.アンドレアス・グルスキー《ラインII》434万ドル(2011年)
3.リチャード・プリンス《スピリチュアル・アメリカ》397万ドル(2014年)
4.シンディ・シャーマン《無題#96》389万ドル(2011年)
5.シンディ・シャーマン《無題#93》386万ドル(2014年)
6.ジャスティン・アヴェルサーノ《ツイン・フレームス#49》378万ドル(2021年)NFT
7.ギルバート&ジョージ《陛下へ》377万ドル(2008年)
8.リチャード・プリンス《無題(カウボーイ)》375万ドル(2014年)
9.ジェフ・ウォール《死んだ兵士の会話》367万ドル(2012年)
10.リチャード・プリンス《無題(カウボーイ)》353万ドル(2016年)
次点:リチャード・プリンス《無題(カウボーイ)》340万ドル(2007年)

注:オークションに限らなければピーター・リック《ファントム》が、2014年に650万ドルで取引されていて2位となるそうです。

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