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或る美術コレクターの悲劇
~アメリカの石油王ジャン・ポール・ゲティは孫よりも美術品を愛していた?

ロサンゼルスのゲティ美術館は、アメリカの石油王ジャン・ポール・ゲティが生涯をかけて集めた美術コレクションを展示しています。
1892年生まれのゲティは、1966年にギネスブックに世界一の富豪と記載されたほどの大金持ちで、その資産を惜しみなく美術品の収集に注ぎ込みました。
しかし、今日、彼の名前はもっぱらある犯罪事件とともに語られています。といってもゲティ自身が罪を犯したわけではなく、立場的には被害者でした。孫が誘拐されて、大金を要求されたのです。しかし事が露わになるとゲティ自身も非難されることになりました。
その経緯が映画になって5月25日から日本公開されます。タイトルは『ゲティ家の身代金』。なぜ被害者のゲティが世間の批判を浴びたのでしょうか?

 

 


1973年7月、80歳のジャン・ポール・ゲティは自分の人生に満足していました。自身の美術コレクションを収蔵するためのゲティ美術館は完成に近づいていました。私生活では5人の妻と結婚・離婚を繰り返し、5人の息子と15人の孫に恵まれました。
そんなある日、イタリアにいる16歳の孫ポール・ゲティ3世が誘拐されたとの報せが入ります。犯人の要求した身代金は1700万ドル(約50億円)。
当然、両親だけでは支払える金額ではなく、祖父のポール・ゲティに相談が持ちかけられますが、彼はこれを拒否します。犯人の要求を簡単に呑むと、他の孫にも危険が及ぶようになるというのです。国家とテロリストとの戦いにおいても繰り返される論理です。
ちなみに、当時すでにゲティ3世の両親は離婚していて、親権は母親にありました。ポール・ゲティにとってゲティ3世は、取り換えのきく15人のうちの1人にすぎなかったのでしょうか。

 

いくどかの交渉の末、犯人は要求する金額を320万ドルに下げてきましたが、それでもポール・ゲティは首を縦に振りません。業を煮やした犯人は11月になって、新たな脅迫状とともに切り落とした人間の耳を送りつけてきます。ポール・ゲティ3世のものに間違いありませんでした。
ようやく身代金の支払いに同意したポール・ゲティでしたが、彼の拠出する金額は220万ドルでした。なぜならば、アメリカの税制では、誘拐事件の身代金として220万ドルまで税金の控除が認められていたからです。差額は息子への貸付金として処理されました。その金利は4%だったそうです。

 

さて、この映画『ゲティ家の身代金』はアメリカで2017年12月に公開され、その年のアカデミー賞にノミネートされるなど好評を博したのですが、実は公開前にちょっとしたトラブルがありました。
当初、ポール・ゲティ役として撮影に参加していたのは、『アメリカン・ビューティー』でアカデミー主演男優賞を受賞した名優ケヴィン・スペイシーでした。しかし、撮影も終了し、映画公開まで2カ月となった10月、彼は男児へのセクハラで告発されます。被害者からの告発が相次いだことから、映像業界はケヴィン・スペイシーを現場から追放することにしました。例えば大手のネットフリックスは、ケヴィン・スペイシーが主演する大ヒットドラマ『ハウス・オブ・カード』の制作を中断しました。『ゲティ家の身代金』もケヴィン・スペイシーの登場場面すべてを代役で撮影し直すことになります。その時点で、映画公開まで2カ月を切っていました。

 

幸いなことに、このニュースでかえって注目を集めたのか、アメリカでの映画の興行成績は予想を上回る好結果になりました。代役でポール・ゲティを演じたクリストファー・プラマーもアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされるなど、評価を高めました。災いを転じて福となしたわけですが、映画の題材となったポール・ゲティのほうは、はたして災いから回復できたのでしょうか?

 

実在のポール・ゲティは1976年に83歳で亡くなります。
その遺産のほとんどは遺族ではなくポール・ゲティ美術館に寄贈され、コレクションもそのまま残りました。憤慨した遺族は1985年、ゲティ石油の株を大手のテキサコに売却し、ゲティ石油の名前は消滅します。そのテキサコも2001年にシェブロンに買収されてなくなりました。
ポール・ゲティ美術館は、80年代の終わり、日本人が世界中の美術品を買いまくっていた頃、よくオークションで競り合う相手として登場しました。
1987年末に、オークションの史上最高落札額記録となったゴッホ『アイリス』(4900万ドル)は、現在、ポール・ゲティ美術館に収蔵されています。
その記録は1989年にピカソ『ピエレットの婚礼』(4975万ドル)に抜かれました。落札したのは日本オートポリスの創業者である鶴巻智徳社長でした。
鶴巻社長は、1990年、大分県の山中にF1サーキットのオートポリスをオープンしました。続けて、隣にコレクションを収蔵する美術館を建設する予定でしたが、バブル崩壊によりその計画は頓挫します。1992年、日本オートポリスは倒産し、コレクションは散逸し、『ピエレットの婚礼』も行方不明になりました。
美術館を残したゲティはまだ幸せなほうだったのかもしれません。

 

 


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