絵画買取MENU

アートコラム Column

メルマガ配信アートコラム

映画『キューティー&ボクサー』は、なぜ高評価なのか?

20世紀前半、芸術の中心地はパリでした。
そのため、梅原龍三郎や東郷青児、そして岡本太郎といった日本の洋画家の多くは、フランスに留学して絵を学んでいます。
日本人ばかりではありません。当時のパリには、多くの外国人画家が集まり、エコール・ド・パリ(パリ派)の名前を冠せられました。
その中には、藤田嗣治や佐伯祐三のように、フランスで人生を終えた画家もいます。
しかし、第二次世界大戦が終わると、芸術の中心はニューヨークに移りました。
そこで、戦後の現代美術家は、今度はニューヨークで修行するようになります。
篠原有司男さんも、その一人です。彼は1969年に渡米してから、2017年の現在まで50年近くニューヨークに滞在し、芸術家として活動しています。

 

篠原有司男さんは、日本の現代美術の歴史には名前の残る人物ですが、一般にはほとんど知られていないでしょう。アメリカでもその事情は変わりません。
しかし、2013年、篠原有司男さんの私生活を撮影したドキュメンタリー映画『キューティー&ボクサー』が、サンダンス映画祭受賞とアカデミー賞ノミネートによって多くの観客を得た結果、その作品や活動も再評価されることになりました。

▲映画『キューティー&ボクサー』

映画『キューティー&ボクサー』は、アメリカ人のザッカリー・ハインザーリング監督によって撮影された、篠原有司男さん夫婦のドキュメンタリー作品です。
ドキュメンタリーは現実を素材として編集された作品ですが、そこに映し出された夫婦の姿は、思いもかけないリアリティーをもって観客の胸に迫ってきます。
なにしろ、1932年生まれの篠原有司男さんは、映画公開当時81歳で、妻の篠原乃り子さんは60歳です。
映画が映し出すのは、まず異国で暮らす高齢日本人夫婦の生活です。それだけでも、高齢化社会を迎えた日本人には興味深い題材です。

 

さらに、篠原夫婦はただの高齢者ではありません。二人はともに、現役の美術家でもあります。
夫妻の暮らすブルックリンのアパートは、過去の作品や制作途中の作品、そしておびただしい数の制作道具、塗料の汚れで雑然としています。
私たちは、芸術家に対してなんとなく狂気や天才のイメージを持っています。そのため、彼らがどのような私生活をおくっているのか、覗き見的な興味を抱くことがあります。カメラは、二人の生活を赤裸々に写しだして、観客を飽きさせません。
端的に言えば、作品がなかなか売れない二人は、お金に余裕がありません。作品の売却交渉や、買い物のシーンで、夫婦の倹約生活が明かされます。
観客は、自由気ままな生活をおくる芸術家を羨む一方で、その困窮具合を見て、芸術家ではない自分たちに安堵することができます。

▲ブルックリン橋

しかし、異国で暮らす日本人高齢者の姿と、現代美術家の貧困生活は、この映画のメインテーマではありません。
この映画は、しばしばラブストーリーであると形容されるように、主題となっているのは81歳の篠原有司男さん(ボクサー)と、60歳の篠原乃り子さん(キューティー)との愛憎劇です。
有司男さんより3年遅く、1972年にニューヨークに来た20歳の乃り子さんは、41歳の有司男さんに出会って、恋に落ちます。
そして、すぐに妊娠した乃り子さんは、1974年に二人の間の息子アレクサンダー・空海を産みます。
しかし、当時、有司男さんは日本に妻子がいたために、周囲の反対も激しいものでした。裕福な実家から援助を受けていた乃り子さんは、仕送りを止められてしまいます。
それでも、二人は助け合って、アメリカでサバイバルする道を選びました。

▲ブルックリンの街角

 

このように、激しい恋愛をした二人ですが、40年経った現在の様子は、どこにでもいる普通の老夫婦に見えます。喧嘩をしたり、愚痴を言ったり、それでも当たり前のように助け合っている、ごく普通の夫婦です。
正確に言えば、乃り子さんのほうが有司男さんに対して不満が大きいようです。
乃り子さんは自虐的に「有司男は私のお金が目当てだった」、「出会ってすぐに金を無心された」、「お金がないから別れることもできない」などと語ります。
では、それが本心で、二人は離婚の危機にあるのかといえば、そうも見えません。乃り子さんは、ボヘミアンな有司男さんに文句を言いつつも、まったく別れる気はなさそうです。
それを見ながら観客は、アメリカという異国の地で40年を過ごしてきた夫婦の、他人にはわからない絆の強さを思い知らされるのです。

 

乃り子さんが、映画のタイトルでキューティーと呼ばれるのは、制作中の自伝マンガアートの主人公の名前にちなんでいます。
一方、有司男さんがボクサーと呼ばれるのは、彼がボクシング・ペインティングで有名になったアーティストだからです。
ボクシング・ペインティングとは、絵の具を染み込ませたグローブを両手にはめて、壁に広げられた巨大なキャンバスを、移動しながら連打することで絵を描く手法です。ニューヨーク・アートシーンのアクションペインティングの再解釈といえるでしょう。
ポロックのドリッピングに似て、無作為に作られる絵の具の染みがアートであるかどうかは意見の分かれるところでしょうが、少なくともその制作風景は、メディアでは受けて、有司男さんは現代芸術家として名前を売りました。

 

映画『キューティー&ボクサー』は、現代美術に興味のない方でも、面白く観られる映画です。
赤瀬川源平さん、荒川修作さんと並ぶ、60年代の日本現代美術界のスター篠原有司男さんは、人生そのものがアートともいえる異化効果を、私たちに突き付けてくるのです。

 

 

 



関連リンク

ご購入にお得な3つの特典

  • 特典1
    作品はすべて額装でお届け
    作品に相応しい額を付けていますがご希望があれば交換も可能です。
  • 特典2
    配送時の保険・送料は当画廊が負担
    お客様のもとへ作品が届くまでの費用は一切かかりません。
  • 特典3
    30日以内の返品受付、返品保証
    お部屋に飾って合わない場合は30日以内の返品を受け付けております。

  分割でのお支払いもご利用いただけます。
  ※10回までの分割金利は当社が負担いたします。

ご購入・絵画販売について >>

来店のご案内

ぜひ画廊にお越しいただき、現品をご覧ください。

展示会等に出品中で、作品等が店頭にない場合がございます。
ご希望の作家、作品がございましたら、事前に電話やメールにてお問い合わせください。

アクセス >>