アートコラム

思い出はどうやって残していますか?

2017/08/29

例えば、お子さんの誕生日にケーキとプレゼントを用意し家族で、またはお友達を招いてパーティーを企画する、という場合、その楽しい時をどのように残しますか?

 

いい思い出として心に残るのはもちろんですが、例えば、最近ならデジカメやスマートフォンなどで簡単に写真や動画にして残すことができますよね。後日振り返れば、みんなで笑いあって楽しめますし、数年後、お子さんが大きくなってからは、ほっこりと懐かしむことでしょう。

 

形に残る思い出は素敵ですよね。でも以前、こんなことがありました。
ある思い出を手放したいという方が来店されたんです。

 

その方から、ある日、ジェームス・リジィの作品をお売りになりたいと問い合わせがありました。
私どもでは販売だけではなく、買取も行っておりますので、この時も、まずメールで買取査定価格をお出ししました。もちろん、最終的には現品を拝見し、状態等を確認する必要がありますので、まずは目安の金額をお出ししました。そして後日、作品を持っていらっしゃいました。

 

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▲リジィ「ジャンクヤード」

 

とても大きく、制作年は30年近く前のものでしたが、色も鮮やかでとても綺麗な状態で、シミなどもありません。大切に飾られていたものだと感じたため、買取のお手続きの際、
「状態に問題はありませんので、当初お出しした価格で買い取らせていただきます」
そうお伝えした後に、
「大切にされていたのではありませんか。お売りになってしまうんですね」
と思わず言ってしまいました。
するとお客様は、ほんのり笑顔になって、
「実は、これ、孫に買ってやったものなんです」
と話してくださいました。

 

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▲リジィ「街の子供には楽しみがいっぱい」


なんでも、お孫さんが小さかった時、誕生日プレゼントとして買ったものだったのだそうです。オモチャなどでは、遊んで、飽きて、終わってしまう。でも絵なら、毎日見て楽しむことができる。だから見ていて、とにかく明るくて元気な気持ちになれるジェームス・リジィの絵を贈ることに決めたそうです。お孫さんもとても気に入ってくれ、毎日とても楽しく過ごされたとのこと。そして月日は流れ、お孫さんも大きくなり、もう充分に楽しんだからということで、今回ついにお売りになる決心をされたそうです。

「また別の誰かに楽しんでもらった方が絵も幸せでしょう」
お客様は、そう仰ってにっこりと微笑まれました。

 

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▲リジィ「ビッグ・アップル」

「楽しかった」という一回だけの思い出ではなく、「毎日楽しい」という時間、生活そのものを贈ることを選ばれた、その思い出という形の残し方がとても素敵だなと感じ入りました。その後もお客様と絵についてお話ししていたところ、
「また何か飾ろうかな」と、ふと仰いました。
せっかくだから、今度は自分のために何か一枚、好きな絵を飾って楽しみたいという気持ちになられたようです。
でも今度は奥様と一緒に来て選びたいということでしたので、その日はひとまず翠波画廊のカタログをお渡ししました。

 

ひとつの思い出を手放す・・・いいえ、次の誰かへと橋渡しすることをお選びいただいたお客様。次はまた新しい思い出のための絵を、大切な人とお選びになるのでしょう。このような素敵な節目に立ち会えることも、画廊スタッフとして働いてよかったと思えることのひとつです。

 

 

 


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