アートコラム

仮想通貨はアート市場をどう変えるか?

2019/10/23

2018年11月14日、アメリカのコレクターだった故バーニー・エブスワースの20世紀絵画コレクションが、クリスティーズ・ニューヨークで競売に掛けられました。
最高落札額となったのは、エドワード・ホッパー『チャプスイ』で、その金額は約104億円となりました。
エブスワースが1973年に購入したときの価格は約2040万円ですから、45年間で価格が510倍に跳ね上がったことになります。
このオークションでは、もう一つ大きな話題がありました。それは、競売の裏側で仮想通貨のシステムが使われたことです。

 

仮想通貨とブロックチェーンを知っていますか?

2018年11月、エブスワース・コレクションのオークション開催に先立ち、クリスティーズはブロックチェーンを利用したアート作品の登録会社「アートリー(Artory)」との提携を発表しました。
ブロックチェーンとは、いま話題のビットコインなどの仮想通貨に使われているプラットフォーム技術です。「アートリー」はブロックチェーンを活用することで、不動産のようにアート作品の登記を行う会社です。
落札されたエブスワース・コレクションの作品はすべて、新しい所有者(購入者)が誰であるかを「アートリー」に登録できるようになりました。
もし作品が盗まれたとしても正当な所有者と所有権は「アートリー」のシステムに記録されているので、表だって売買できなくなります。

なぜ、ブロックチェーンシステムが登記に向いているかといえば、改ざんが不可能なセキュリティシステムを備えているからです。
そもそもブロックチェーンは、仮想通貨ビットコインのプラットフォームとして誕生しました。
仮想通貨とは、読んで字のごとくバーチャルなお金ですから、物理的な存在である現金に比べて、模造やコピーが容易だと思われがちです。実際に、私たちはパソコン上でたいていのデータのコピー(複製)を簡単に作ることができます。
コピーができるお金なんてまったく信頼できませんから、仮想通貨はその成り立ちにおいて、コピー不可能なデータであることを立証せねばなりませんでした。そこで作られたのがブロックチェーンシステムです。
ブロックチェーンにおいては、すべてのデータの移動(取引)が数千カ所のサーバーにほぼ同時に記録され、保存されます。そのため、勝手にお金(データ)を偽造しても、出所不明の怪しいデータとして、すぐにシステムからはじかれてしまいます。
過去にさかのぼって取引履歴を改ざんしようとしても、数千台のシステムを同時にハッキングすることは、ほぼ不可能です。
こうして、仮想通貨は通貨としての信用性を獲得しました。
また、ビットコインは勝手に供給量を増やせず、厳密なルールのもとにわずかずつ総量を増加させるシステムになっています。これは過剰供給によるインフレを防ぐためです。勝手に紙幣を印刷できないという点では、米ドルや日本円などの政府通貨より優れているかもしれません。

 


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絵画の真贋判定は来歴によって行われてきた

仮想通貨の強固なセキュリティシステムであるブロックチェーンを、作品来歴の登記システムとして利用したのが「アートリー」です。
「アートリー」は、「お金」の取引に利用されていたブロックチェーンを、「作品」の取引の履歴に応用して、アート作品の真贋判定システムを作りだしました。
そもそも、美術品の真贋判定は来歴によるところが大きかったのです。
たとえば、作者から知人に直接販売されて、その知人が長年所有し続けたという来歴を持つ作品であれば、偽物とすり替えられた可能性は非常に低く、信頼できる真作と判断されます。
一方、出所が不明で、作者の日記や手紙や専属画商の販売記録などをさかのぼってみても存在した形跡がない作品が突然出てきた場合には、誰かが作者の名を騙ってそれらしく描いた贋作である危険性が高くなります。
このように、美術品の真贋は出所や来歴をさかのぼることで判断するものです。鑑定書というものもありますが、その鑑定書を作成するにあたっても、信頼できる一次情報で来歴を調べるのが基本とされています。
つまり、取引データをすべて記録できて、その作品の来歴をどこまでも過去にさかのぼって調べることのできるブロックチェーンは、アート作品の登記に最適なシステムだったのです。
また、現代美術家の施井泰平さんが社長を務めるITベンチャー企業のスタートバーンは、すべての取引が記録されるブロックチェーンの機能を使って、セカンダリーマーケットの売上の一部をアーティストに還元するプラットフォーム「アート・ブロックチェーン・ネットワーク」(ABN)作りに取り組んでいます。
古来、複製のできない手作業が重視されてきたアートの世界も、テクノロジーによって大きく変わろうとしています。

 

アート作品の一部分だけを所有できるって本当?

アンディ・ウォーホル
「12分儀の電気椅子」(1964-65年)

アート業界におけるブロックチェーンの活用は、登記ばかりにとどまりません。
ブロックチェーンを利用してアート作品取引を手掛けるシンガポール企業マエケナス(Maecenas)は、2018年6月に、アンディ・ウォーホル『12分儀の電気椅子』の所有権の49%を分割して販売する試みを行いました。
所有権という目に見えない権利を販売することは、不動産ではよく行われていますが、アート作品ではまれです。なぜならば、アート作品は所有する楽しみが大きいため、他人と共有することが難しいからです。
しかし、アート作品を投資と考えたときに、不動産と同様に所有権だけを持って値上がりを待つことも可能になります。
作品自体は所有権の51%を保有し続けるイギリスのダディアーニ美術館に置かれますが、分割された残りの49%の所有権を持つ共同オーナーは、いつでも美術館で作品を閲覧することができます。
アート市場ではピカソに次ぐ人気を誇るウォーホルの作品ですから、十数年後の値上がりも十分に期待できるでしょう。

細かく分割販売されたウォーホル『12分儀の電気椅子』の所有権49%の販売総額は6億円以上にのぼりました。特筆すべきは、その代金の3割近くが仮想通貨で支払われたという事実です。
また、マエケナスは前述の日本のベンチャー企業スタートバーンと提携して、アート作品の履歴を記録することにも取り組んでいます。
アート市場や画商業界が仮想通貨とブロックチェーンの荒波にさらされる未来は、もうすぐそこまで来ています。
2020年はそれこそ、不動産ファンドREITのようなアートファンドが投資商品として登場し、銀行や証券会社の窓口で勧められるようになる日が来るかもしれません。

 

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