アートコラム

モジリアーニの描いた肖像画って本当に似ているの?

2019/05/07

人物画を得意としたモジリアーニは、数多くの友人の肖像画を残しています。貧乏でモデルを雇うお金がなかったのもありますが、よき仲間に恵まれていたのでしょう。写真が登場するまで、肖像画はその人の姿を後世に残す唯一の方法でした。しかしモジリアーニの生きた19世紀末はすでに写真が普及した時代です。そのため、ただ写実的に描くだけでは意味がないと、多くの画家が悩みました。独創的な画風で知られるモジリアーニは、どのような肖像画を描いていたのか、写真と比較してみましょう。

 

モジリアーニの人物画は細長い

 

モジリアーニの写真

モジリアーニ「自画像」

まずは自画像から見てみましょう。
こちらがモジリアーニの肖像写真です。
プレイボーイで知られるイタリア人らしく、なかなか男前ですね。モジリアーニの描いた自画像と比較してみましょう。モジリアーニの人物画の特徴は顔の細長さです。実物よりも細面になっているのがわかります。また、写真の印象よりも優しそうでもありますね。肖像画は見たままではなく内面を描くものでありましたから、モジリアーニの自意識の表れかもしれません。

 

ジャンヌ・エビュテルヌの写真

モジリアーニ「ジャンヌ・エビュテルヌの肖像」

ジャンヌ・エビュテルヌはモジリアーニの妻です。
モジリアーニが35歳で病気で死んだ2日後、ジャンヌも後を追って飛び降り自殺しました。若干21歳で、お腹にはモジリアーニの子を宿していたそうです。
ジャンヌの肖像も、モジリアーニらしく細長い顔に描かれています。知っている人が見れば「モジリアーニだな」とすぐにわかる画風です。

 

ジャン・コクトーの写真

モジリアーニ「ジャン・コクトーの肖像」

では、もともと細長い顔の人物の場合は、どうなるのでしょうか。
エコール・ド・パリの仲間であるジャン・コクトーは細い顔で有名でした。モジリアーニの描いたコクトーは、細面と癖毛を忠実に再現していて、なかなかよく似ています。しかし、顎のあたりを見るとさらにデフォルメして細さを強調していることがわかります。

 


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特徴をとらえてデフォルメしたモジリアーニ

 

モイズ・キスリングの写真

モジリアーニ「モイズ・キスリングの肖像」

モイズ・キスリング「自画像」

モジリアーニが描くと、どんな人でも細くなるのかといえば、そうでもありません。同じくエコール・ド・パリの仲間の画家キスリングの肖像画では、丸い顔の特徴を的確にとらえています。その一方で、鋭い眼光の方は実物以上に表現しています。キスリング自身が描いた自画像と比べてみると、肖像画の描き方にもいろいろあるものだと感心します。キスリング自身の自画像は、実物よりもイケメンですね。

 

 

シャイム・スーチンの写真

モジリアーニ「シャイム・スーチンの肖像」

シャイム・スーチン「自画像」

 

エコール・ド・パリの仲間の画家シャイム・スーチンの肖像画もまた、細くない顏です。モジリアーニが顏や身体を細く伸ばして描いたのはアフリカ彫刻の影響ですが、それにとどまらずにさまざまな描き方を試していました。スーチンの肖像画は細面でこそありませんが、モジリアーニらしい繊細さや優しさがよく出ています。スーチン自身の描いた自画像と比較すると、一見似ていないのに、口元などが同一人物であることを感じさせます。

 

ディエゴ・リベラの写真

モジリアーニ「ディエゴ・リベラの肖像」

ディエゴ・リベラ「自画像」

フリーダ・カーロの夫としても知られるメキシコの画家ディエゴ・リベラは、一般的にはエコール・ド・パリの画家と認識されていませんが、実は同時代にパリに修業に来ていて、モジリアーニをはじめとするエコール・ド・パリの作家と親しくしていました。
モジリアーニの描くリベラの肖像画は、その太った肉体を強調していて、モジリアーニらしい細やかさに欠けています。
リベラ自身はリアリズムの画家だったので、自画像も写実的です。

 

 

エコール・ド・パリの模様を伝える交友関係

 

ファン・グリスの写真

モジリアーニ「ファン・グリスの肖像」

ファン・グリス「自画像」

ファン・グリスはエコール・ド・パリというよりも、ピカソやブラックと同じキュビスムの画家として知られています。
実はキュビスムとエコール・ド・パリとは、ほぼ同時期にパリで起きています。そのため二つのグループの間には少なからず親交がありました。
モジリアーニの描くファン・グリスは、モジリアーニの特徴である長い顔と首を持ち、グリス自身の自画像は、キュビスムの特徴である分割されたキューブになっています。

 

 

ジャック・リプシッツの写真

モジリアーニ「ジャック・リプシッツ夫妻の肖像」

エコール・ド・パリの仲間は画家ばかりではありません。ジャック・リプシッツやアンリ・ローランスといった彫刻家も少なからずいました。モジリアーニ自身、若い頃は彫刻家を目指していて、ブランクーシに師事したこともあります。ジャック・リプシッツは、モジリアーニが亡くなったときに、そのデスマスクを作るほど親しい友人でした。リプシッツ夫妻の肖像画は、リプシッツがモジリアーニに金銭援助をしたくて頼んだものだと言われています。

 

アンリ・ローランスの写真

モジリアーニ「アンリ・ローランスの肖像」

アンリ・ローランスもフランスの彫刻家で、エコール・ド・パリというより、ピカソやブラックらキュビスムの一員として知られています。モジリアーニの描くアンリ・ローランスは、モジリアーニの画風の特徴である、黒く塗りつぶされた目と、白く塗り残された背景を持っています。頼まれて描く肖像画は、時間をかけて描きこむほうが高い価格で売れたのですが、モジリアーニは余白のあるほうがよいのだという自分の信念をまげませんでした。貧乏でも、志を高く持っていたのです。

 

 

周囲の人々に愛されたモジリアーニ

 

ポール・ギヨームの写真

モジリアーニ「ポール・ギヨームの肖像」

ポール・ギヨームは、モジリアーニの生前からその絵を愛した数少ないコレクターです。モジリアーニは、この貴重なパトロンのためにいくつかの肖像画を残しました。パトロンだからといって遠慮することなく、いつもの画風で描くモジリアーニですが、人物の特徴は確実にとらえています。

 

レオポルド・ズボロフスキーの写真

モジリアーニ「レオポルド・ズボロフスキーの肖像」

絵が売れずに困窮していたモジリアーニを助けたのが、友人である詩人のレオポルド・ズボロフスキーです。ズボロフスキーは生活費を稼ぐために本や版画を販売していて、やがてモジリアーニの絵も一緒に売るようになりました。
モジリアーニの生涯唯一の個展を企画したのもズボロフスキーですし、モジリアーニ夫妻の死後に残された一人娘を遺族のもとに連れて行ったのもズボロフスキーです。
肖像画も、その内面の優しさをよく表現しています。
モジリアーニ、スーチン、ユトリロ、シャガールなどの絵を最初に手掛けた画商として知られているズボロフスキーですが、実業家としては大成せず、1930年の世界恐慌で全財産を失ってしまいました。

以上、モジリアーニの残した11枚の肖像画でした。写真と比較することで、画家の表現の意図をよりよく理解することができたと思います。

 

 

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