アートコラム

ストリートアートにはポップミュージックがよく似合う(その1)

2019/09/03

近代芸術(モダンアート)から見ると、現代芸術(コンテンポラリーアート)はときどき前衛的で攻撃的で実験的すぎるようにも見えます。そうは言っても現代芸術は、ギャラリーやオークションといった美術市場、大学や美術館といったアカデミックな権威から認められた上位文化(ハイカルチャー)です。その外側には、ヒップホップカルチャーや路上の落書き(グラフィティ)などと深く関係するストリートアートがあります。
ストリートアートはアニメやポップミュージックといった下位文化(サブカルチャー)とも親和性があり、従来はハイカルチャーとは別のものと思われてきました。しかし、商業美術と現代美術の融合であるポップアートの登場以来、ストリートアートも徐々に現代アートとして認知されるようになってきています。
今回から、そんなストリートアートの歴史をご紹介しましょう。

 

 

1960年代まで歴史をさかのぼるストリートアート

Slash『SLASH』
2010年(ロン・イングリッシュ)

ストリートアートの定義はさまざまですが、ごく簡単に言えば「公共の場所で勝手に制作・展示された芸術作品」と言えるでしょう。その始まりは諸説ありますが、理論的支柱となったのは1931年生まれのフランスの著述家ギィ・ドゥボールの国際状況主義連盟運動でしょう。ダダやシュルレアリスムの流れを受けて、秩序からの解放と社会革命を目指したこの芸術運動は、フランスの1968年の5月革命に影響を与え、路上でのハプニング的な芸術を称揚しました。この思想を受けて、アメリカで1970年代に始まったストリートアートが、ジョン・フェクナーやロン・イングリッシュの作品群です。
ジョン・フェクナーは型紙とスプレーを使ったステンシルと呼ばれる方法で公共の建物や壁にゲリラ的にメッセージを描いて回りました。後の時代にバンクシーが壁に絵を描いたのと同じ方法です。ロン・イングリッシュはもっと過激に、マクドナルドやディズニーなどの路上広告の上に、その商業性を揶揄する絵を描いて作品に仕上げました。近年は、ピカソやウォーホルやバスキアの模写の上に自分の絵を描いた作品などもあります。
同時に、ロン・イングリッシュは大衆文化の擁護者でもありました。映画やアニメやゲームのキャラクターを引用した絵画や彫刻を発表しては人々を楽しませました。その作品の色調は派手でどぎつく、とにかく目立ちます。
ロン・イングリッシュはアメリカでは人気者で、ポップミュージックのアルバム・ジャケットをいくつか手掛けています。
有名なのは、世界的な人気バンド、ガンズ・アンド・ローゼズのギタリストであるスラッシュのファースト・ソロ・アルバムなどでしょうか。

 

 


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1980年代の時代の寵児となったストリートアーティスト

 

Emanon『The Baby Beat Box』
1986年(キース・ヘリング)

1970年代のストリートアートの隆盛は、商業的に成功するアーティストを生み出す下地をも作りました。中でも最も有名になったのは、1980年代に活躍したキース・ヘリングでしょう。残念ながらエイズを発症してわずか31歳で亡くなってしまいましたが、死後約30年が経つ現在も根強い人気を誇っています。
キース・ヘリングは、ニューヨークの地下鉄の広告掲示板の空きスペースに黒い紙を勝手に貼って、そのうえにチョークで絵を描くサブウェイ・ドローイングで有名になりました。地下鉄の乗客の間で話題になると、画商が目をつけて連絡を取り、個展を開催して一生懸命に売り始めます。シンプルな太い線でコミカルに描かれるキース・ヘリングの絵は、またたくまに人気になりました。彼はストリートアートから現代アートへと華麗なる転身を遂げた最初の一人です。
しかし、キース・ヘリングはストリートカルチャーの魂を失いませんでした。彼のグラフィティはTシャツやスケートボードといった商品になり、ヒップホップミュージシャンのアルバム・ジャケットを飾りました。1986 年のEmanonのアルバム『The Baby Beat Box』のジャケットは、ラジカセがブレイクダンスを踊るという当時のストリートカルチャーを象徴するものです。ちなみにEmanonとは有名DJだったアフリカ・イスラムの変名で、No Name(名無し)をさかさまにしたものです。
ちなみにキース・ヘリングの人気は日本でも高く、世界初のヘリング専門美術館となる中村キース・ヘリング美術館が2007年に山梨県で開館しています。

 

キース・ヘリング作品一覧ページ >>

 

 

ZOZOTOWNの創業者が高額落札したストリートアーティスト

Rammellzee + K-Rob『Beat Bop』
1983年(バスキア)

ストリートアートから現代アートへと転身したもう一人のシンデレラ・ボーイが、ジャン=ミシェル・バスキアです。
若きバスキアは、「SAMO」という名前のサインとともにスプレーを使って地下鉄や壁などに作品を描き残すグラフィティ・アーティストでしたが、キース・ヘリングやバーバラ・クルーガーといったストリートアートの先輩に見出されて、現代アートの世界に足を踏み入れるようになります。その後、アンディ・ウォーホルとも知り合いコラボレートするようになったバスキアは、キース・ヘリングに次ぐ時代の寵児として注目されますが、流行の移り変わりによるプレッシャーに悩まされて薬物依存に陥り、1988年に27歳の若さで死亡します。
薬物の過剰摂取で亡くなった若きアーティストは、1992年のホイットニー美術館の大回顧展、1996年のフィクション映画『バスキア』、2010年のドキュメンタリー映画『バスキアのすべて』など、その業績を発掘する企画が折りに触れて開催されることで徐々に伝説化されました。日本でバスキアの名が高まったのは、なんといっても2017年、ZOZOTOWNの創業者による作品の高額落札がニュースになってからでしょう。123億円という価格は、アメリカ人画家の最高落札価格を更新する高額で、当時の絵画オークションの落札記録でも5位に入るものでした。以来、日本でのバスキアの知名度は高まり、2019年9月21日からは六本木の森アーツセンターギャラリーで日本初の回顧展が行われることになりました。また12月には新たなドキュメンタリー映画が公開されます。
自らもバンドを組んでクラリネットを演奏していたバスキアは、レコード・ジャケットもいくつか手掛けています。中でも自らがプロデュースからアートワークまで手がけたレコード『Beat Bop』は、中身も名盤の呼び声が高いものです。バスキアと同じくグラフィティ・アーティストでもあったラッパーのラメルジーが、同じくヒップホップ界のカリスマであるK-ROBと一緒にラップをしたもので、オリジナル盤はたった500枚しかプレスされず、中古でも高額で販売されるレアものとなっています。

 

 

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