自分だけの世界を持つということ
~トクトクという若き才能

長い間、美術の仕事に携わっていると、実に多くの作品、そして多くの若い作家たちと出会います。
技術のある作家、色彩感覚に優れた作家、時代の空気を巧みに捉える作家。
その中で、ときどき「この作家はこれからどこへ行くのだろう」と、先を見続けてみたくなる作家が現れます。
私にとって、フランスの若手アーティスト、トクトク(Toctoc)は、まさにそんな一人です。

巨匠たちの名画に宿る、トクトクだけの世界観

『ネズミのデュデュス』アクリル、地図
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今回、翠波画廊でトクトクの来日展を開催するにあたり、改めて彼の作品を眺めてみると、私が最も魅力を感じるのは、彼がすでに「自分だけの世界」を持っているということです。
これは、アーティストにと切って非常に大なことだと思います。
絵を学べば学ぶほど、作家は過去の巨匠たちから影響を受けます。
ピカソ、ゴッホ、モネ、ムンク、バスキア、ウォーホル――美術の歴史に名を残した作品には、それだけ後世の人々を惹きつける力があります。
トクトクの作品にも、そうした巨匠たちはたびたび登場します。
ゴッホの自画像、ムンクの《叫び》、モネの世界、ピカソやバスキア。
誰もが一度は目にしたことのある名画や芸術家を題材にしながら、そこへトクトク自身のキャラクター「DUDUSS(デュデュス)」が入り込んでいく。
私は、ここがとても面白いと思っています。
一見すると、名画を面白く作り替えたパロディのように見えるかもしれません。
しかし、私は少し違う見方をしています。

『バンクシーに捧ぐ 2』アクリル、紙、額
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トクトクが巨匠たちの作品を題材にするのは、彼らの作品を否定したり、単に茶化したりするためではありません。
むしろ私は、そこに巨匠たちへのオマージュ、つまり敬意を感じます。
人は本当に関心のないものを、繰り返し自分の作品の中には登場させません。
ゴッホの絵に自分の世界を重ねる。
モネの名画にDUDUSSを登場させる。
ピカソやバスキアと自分なりの方法で対話してみる。

それは、「自分が敬愛する美術の歴史を、いまを生きる自分ならどう見るのか」という問いでもあるのではないでしょうか。
過去の名作を借りながら、新しい視点を加え、最終的には自分自身の作品にしてしまう。
そこにトクトクの面白さがあります。

『キング・バスキア』アクリル、パステル、キャンバス
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ゴッホを描いてもゴッホの模倣にはならない。
ピカソを扱ってもピカソにはならない。
バスキアを引用しても、最後には必ず「トクトクの絵」になっている。
巨匠への敬意を持ちながら、その世界に少しいたずらをし、自分なりの解釈を加えて現代に引き戻す。
私はこれもまた、若いアーティストが美術の歴史と向き合う一つの方法なのだと思います。
そして、その中心にいるのが、しゃくれた顎を持つ不思議なキャラクター、DUDUSS(デュデュス)です。
初めて見る人は、「何だろう、このキャラクターは」と思われるでしょう。
決して格好いいわけでもなく、美しいわけでもありません。
けれど、一度見たら忘れない。
少し可笑しく、少しとぼけていて、どこか憎めない。そして気がつけば、こちらまで笑顔になっている。
私は、ここにトクトクという作家の本質があるように思います。

自分を信じて描き続けた先に生まれた、トクトクだけの個性

彼がDUDUSSを描き始めた頃、周囲からは「醜いから描くのをやめた方がいい」と言われたそうです。
それでも彼は描くことをやめませんでした。
私は、このエピソードがとても好きです。
若い作家にとって、他人の評価ほど気になるものはありません。まして、自分が生み出したものを否定されれば、誰かに受け入れられやすい表現へ変えたくなるものです。
ところがトクトクは、自分が面白いと思うもの、自分が信じるものを描き続けます。
そして、そのDUDUSSこそが、今では作品を一目見ただけで「これはトクトクだ」と分からせる最大の個性になっています。
これはアーティストにとって、とても大きなことです。
上手い絵を描く人はたくさんいます。
美しい作品をつくる人もたくさんいます。
しかし、作品を見た瞬間に作者の名前が浮かぶほどの「自分だけの記号、自分だけの世界」を持つ作家は、それほど多くありません。

トクトクのアトリエの様子

美術の歴史を振り返ってみても、新しい時代をつくった作家たちは、最初から皆に理解されたわけではありません。
「見たことがない」「変わっている」「何だ、これは」
そう言われるところから、新しい表現は始まることがあります。
上手いか下手かという物差しだけでは測ることのできない、その人にしかつくれない世界を持っているかどうか。
私は作品を見る時、そこを非常に大切にしています。
その意味で、トクトクにはすでに自分の世界があります。
そして彼の作品には、もう一つ大きな魅力があります。
それは、人を楽しませようという気持ちです。

『りんご(毒なし)』アクリル、キャンバス
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現代アートというと、時に難解な思想や社会に対する強烈な批判が前面に出ることがあります。
それももちろん、芸術の大切な役割です。
一方、トクトクは「見てくれる人を笑顔にしたい」と語ります。
これはとても素朴な言葉ですが、私は芸術によって人を笑顔にするということは、素晴らしいことだと思っています。
家に帰った時、壁に掛かった絵を見て少し気持ちが明るくなる。
忙しい一日の中で、ふとDUDUSSと目が合って笑顔になる。
友人が家を訪れた時、「この絵、面白いね」と会話が始まる。
絵画は、美術館の壁に掛けられている時だけが芸術なのではありません。
人の暮らしの中に入り、その人の毎日に少しだけ豊かな時間をつくる。
それもまた、芸術の大切な力だと思います。
トクトクの作品には、その力があります。

トクトク本人

さらに興味深いのは、彼自身が「ストリートアーティスト」「イラストレーター」といった一つの肩書に収まろうとしていないことです。
絵画だけでなく、ファッションやキャラクター、映像、書籍など、DUDUSSという世界はこれからさまざまな方向へ広がっていく可能性を持っています。
まだ若い作家です。
だからこそ、完成していない。
そして私は、そこにこそ面白さを感じています。
すでに評価の定まった巨匠の作品を見る喜びとはまた別に、若い作家の作品には、これから何が起こるのか分からないという楽しみがあります。
今の作品を10年後、20年後に振り返った時、彼の長いキャリアの中でどのような位置に見えるのでしょうか。
DUDUSSが世界のどこまで旅をしていくのか。
トクトクという名前が、これからどこまで知られていくのか。
私は美術商として、その変化を見続けてみたいと思っています。

『お昼寝』アクリル、キャンバス
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優れた若い作家と出会った時、私が考えるのは「有名になるかどうか」だけではありません。
もっと大切なのは、自分だけの表現を信じ、それをどこまで深く、大きく育てていけるかということです。
トクトクには、すでにDUDUSSという独自のキャラクターがあります。
人を笑顔にするユーモアがあります。
そして、過去の巨匠たちを敬愛しながら、その名作を自分自身の視点でもう一度現代に蘇らせるという面白さがあります。
美術の歴史を振り返りながら、決してそこに留まらず、自分の世界へと変えていく。
私は、そこに彼のこれからの可能性を感じています。

『ファン・ゴッホ・デュデュス』アクリル、キャンバス
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今回の来日展では、ぜひ写真や画面だけではなく、実際の作品を間近でご覧いただきたいと思います。
アクリル絵具の質感、描かれた線、色彩、名画の中に潜ませた遊び心、そしてDUDUSSの表情。
作品の前に立つと、トクトクがなぜ少しずつ世界の人々を惹きつけ始めているのか、その理由を感じていただけるのではないでしょうか。
巨匠への敬意を忘れず、それでも誰かの真似にはならない。
自分だけのキャラクターを持ち、自分だけの世界を描いていく。
そして、その絵で人を少し幸せな気持ちにする。
トクトクは、そんな魅力を持った若いアーティストです。
この若き才能が、これからどのような表現を生み出し、どのような世界を私たちに見せてくれるのか。
今回の来日展が、皆様にとってその未来を一緒に見始める機会になれば、これほど嬉しいことはありません。

 

翠波画廊 髙橋芳郎

 

翠波画廊代表 髙橋芳郎

株式会社ブリュッケ(翠波画廊)代表取締役。
美術大学卒業後、都内の画廊での修行を経て、1990年に独立。 1993年、故郷の秀峰の名を冠した「翠波画廊」をオープンさせる。
以降長きにわたり、ピカソ、マティス、藤田嗣治、ユトリロ、ローランサン等フランスの近代巨匠から、
ウォーホル、キース・へリング等現代アートまで幅広く扱う。

 

 

【予約受付中】トクトク来場イベント開催決定!

パリから届いた、とびきりのユーモア
《トクトク 初来日展》

 

パリを拠点に活躍するフランス人ストリートアーティスト、トクトク。
このたび初来日を記念し、翠波画廊にて《トクトク 初来日展》を開催いたします。
展覧会期間中には、翠波画廊大阪梅田店・東京銀座店の両会場にトクトク本人が来場します。
作家本人と直接触れ合いながら作品をご覧いただける、初来日ならではの機会をお楽しみください。

 

 

【大阪梅田店】会期|10月23日(金)~11月3日(火・祝)*作家来場日 11月3日(火・祝)

【東京銀座店】会期|11月7日(土)~11月19日(木)*作家来場日11月7日(土)

 

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