驚きの落札価格、80年ぶりに現れた幻の肖像画
~ピカソ《花飾りの帽子を被った女》
出張でパリを訪れていた折、ドルオーのオークション会場を訪ねる機会がありました。
ちょうどピカソのプレビュー期間中で、ライトを落とした一室の前には数名の黒服のスタッフが立ち、厳重な雰囲気が漂っていました。
中へ入ると、うっすらとした光の中に浮かび上がるようにして、パブロ・ピカソの《Buste de femme au chapeau à fleurs(花飾りの帽子を被った女)》が展示されていました。
その傍らには、この作品がピカソのアトリエの隅に立て掛けられた写真や、当時の雑誌に掲載された図版が添えられ、真作であることを物語っていました。
モデルは、ピカソが生涯で最も複雑な関係を結んだ女性の一人、ドーラ・マール。
戦時下の1943年、ナチス占領下のパリで描かれたこの肖像画は、80年以上もの間、公の場に姿を現すことのなかった作品です。
厚く重ねられた絵具の層、経年を感じさせる色味、そしてわずかに歪められた形態の中に宿る張り詰めた緊張感、その前に立つと、まるで時代そのものの息遣いが聞こえてくるような重厚な存在感がありました。
5分で身につくアートの教養、定期配信中!
登録は無料!こちらからご登録ください>>
長らく公開されなかった幻の一枚
ピカソ《花飾りの帽子をかぶった少女》この作品がなぜこれほど注目を集めているのか、そしてどのような経緯で再び世に出たのかにも強く興味を惹かれました。
実は、長年パリの旧家に秘蔵されており、家族の相続の関係で今回の出品が実現したのだそうです。
記録によれば、1943年に制作された直後に個人の手に渡り、その後一度も公の場に出ることがなかったとのことです。
また美術史的にも、戦時中に描かれた「帽子の女」シリーズの中でこの一点だけが行方不明とされていたため、研究者の間では“幻のドーラ・マール像”として知られていました。
プレビューでキャンバスを間近に見ると、占領下の不安と閉塞感のただ中で、ピカソが絵を描くという行為に込めた圧倒的なエネルギーを感じずにはいられませんでした。
筆致は荒々しく、それでいて構成は精緻、まるで混沌の中に秩序を見出そうとするピカソの精神が、そのまま絵肌に刻まれているようでした。
誰もが驚いた、幻の一枚の落札価格
© SUCCESSION PICASSO 2025 / BENOIT TESSIER / REUTERSそして10月24日、いよいよドルオーでのオークション当日を迎えます。
オークション会社が設定した推定スタート価格は800万ユーロ。
私は当日会場へは足を運びませんでしたが、どこまで値が上がるのか非常に注目していました。
開札直後から国内外のコレクターによる激しい競り合いが続いたようで、最終的には手数料込みで3,201万ユーロ──日本円にしておよそ56億円という驚きの結果となりました。
これほどの高値となった理由はいくつか考えられます。
まず、80年間秘蔵されていたという希少性。
次に、モデルがピカソのミューズ、ドーラ・マールであるという人物的魅力。
そして、占領下という極限状況の中で描かれたという歴史的背景。
これらすべてが重なり合い、単なる絵画ではなく「時代そのものを象徴する作品」として評価されたのです。
時を重ねて紡がれた物語
ピカソとドーラ・マールこの落札価格を知ったとき、私は改めてアート作品に宿る「物語の力」の大きさを実感しました。
80年前に描かれ、長らく行方不明とされていた絵が、歴史の闇を抜けて再び光の下に姿を現した、その背景にある時間の積み重ねと物語こそが、人々の心を深く揺さぶり、莫大な金額で取引されるほどの価値を生み出したのです。
アートの価値は、単に美しいからでも、有名な作家の手によるからでもありません。
そこに込められた物語―時代を超えて受け継がれてきた人間の営みや記憶こそが、真の価値を形づくるのです。
人は物語に共感し、そこに自らの記憶や想いを重ねることで、アートを通じて過去と未来を結ぶその歴史背景にロマンを感じるのです。
その共感の連鎖こそが、作品の価値を永続的に高め、歴史を紡ぎ、後世へと受け継がれていく原動力となるのです。
ピカソ作品の市場は長年にわたり安定していますが、近年、こうした“発見された物語”を持つ作品への熱狂が高まっているのは偶然ではありません。
美術品の価値は、作品が語る物語と、それを受け取る人々の記憶が結びついたときに、いっそう深まるのです。
それは単なる価格上昇を意味するのではなく、アートが「人間の記憶をつなぐ装置」として機能し続ける証だと言えるでしょう。
今回の落札は、ブルーチップアート(資産性の高いアート作品)の強さを改めて印象づける出来事でした。
そして同時に、アートを所有するということ、それは単なる資産形成にとどまらず、
時間を超えて人と作品、そして歴史を紡ぎ、物語を後世に手渡していく行為なのだということを、この《花飾りの帽子を被った女》が雄弁に語ってくれているように思います。
翠波画廊でもピカソの版画や素描を取り揃えております。
ぜひ、いつまでも残る“本物の一枚”をご覧ください。

翠波画廊代表 髙橋芳郎
アート作品をご資産としてご購入される方は年々増えております。
感性と資産としてのアートコレクションをお考えのお客様、ぜひお気軽にご相談ください。
株式会社ブリュッケ(翠波画廊)代表取締役。
美術大学卒業後、都内の画廊での修行を経て、1990年に独立。
2001年、故郷の秀峰の名を冠した「翠波画廊」をオープンさせる。
以降長きにわたり、ピカソ、マティス、藤田嗣治、ユトリロ、ローランサン等フランスの近代巨匠から、
ウォーホル、キース・へリング等現代アートまで幅広く扱う。
《ピカソ作品のご紹介》

《鳩》鉛筆・紙
詳細はこちら>>

《アブサンのグラス》1972年 銅版 300部
詳細はこちら>>

《休息する二人の裸婦》1931年 銅版 260部
詳細はこちら>>
登録は無料!
知ってて得するアートコラム、新入荷作品情報、お買い得の特別価格作品情報など、お役立ち情報をお届けしています。
【配信コンテンツ】

1. 役立つアートコラム(月3~4回配信)
読むだけで最新のアートシーンや絵画の知識が身につくコラム。アート初心者からコレクターの方まで必読です。
2. イベント情報
画廊でのワークショップやセミナーのご案内をいち早くお知らせ!
3. 展示会のご案内
翠波画廊で開催する展覧会や、全国百貨店での作家来日展情報などをお知らせいたします。
私たちにできること
1
絵画購入のご相談
些細なこともお気軽にご相談ください。
30日以内の返品保証など
安心のサービスをご用意
2
お部屋やご予算に合わせた
絵画のご提案
お客様のご要望をお伺いし、
1,500点以上の豊富な作品から
最適な一枚をご提案いたします。