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美術品の価格を簡単に上げる方法
~ダミアン・ハーストが思いついて実行した異次元のアイデア

美術品の価格は不思議なものです。

いわゆる工業製品であれば、原材料費と製造にかかる設備費、人件費、販管費に利益を乗せたものが価格になりますが、美術品の場合は違います。
キャンバスと絵の具の代金、そして画家の手間賃と利益とを足し合わせても、とうてい何百万円、何千万円にはならないものが、その値段で売れることもあります。

美術品の価格は、買う人がその作品の中に見る「価値」次第で、天井知らずに上がります。
その「価値」は「芸術性」と呼ばれることもありますし、「稀少性」と呼ばれることもあります。いずれにせよ、それだけの「価値」があると感じた人がいるからこそ、価格が上がるのです。
では、その「価値」を上げるにはどうしたらいいでしょうか?

 

「価値」を上げるにはいくつかの方法があります。

一つは「交換価値」を高めることです。その美術品が、より多くの人が欲しがるもので、いつでも適当な価格で「売買」できるのであれば、「価値」はさらに高まります。現在、草間彌生作品の価値が高いのは、多くのファンがいるからでもあります。

もう一つは「ブランド価値」を高めることです。その美術品、あるいは作家の「ブランド」が高くなればなるほど、欲しがる人が増えて前述の「交換価値」が高まります。

また、美術品は基本的に唯一無二の一点モノばかりですから、「ブランド価値」が高くなれば、当然「稀少価値」も高くなります。フェルメールは作品数が30数点と少ないからこそ、価値が高まっている面もあります。

しかし、いずれも簡単にはできることではありません。
過去には、自分の契約している芸術家の作品の価値を上げるために、画商がオークションで価格を吊り上げたり、あるいは市場流通数をコントロールして稀少性を演出したりすることもありましたが、どちらも方法としては不確実です。
そもそもビジネスに絶対なんてないのですが、それでもできるだけ確実な方法を探したいところです。

実は、それらとはまったく異なる発想で、作品の価格を高めた芸術家がいます。
その作家とは、何かと物議を醸すことで有名な、イギリスのダミアン・ハーストです。
ダミアン・ハーストは1965年生まれで、美術史に名前が残る作家としては最も若手に当たります。日本の村上隆が3歳年上で同世代と言えば、わかりやすいでしょうか。

ハーストの最も有名な作品は、ホルムアルデヒドに漬けて保存した動物の死体シリーズです。4メートルにおよぶサメや、真っ二つに切断されて輪切りの内臓が見える牛など、グロテスクなのに目が離せない作品群はハーストの名声を一挙に高めました。
輪切りの死体はあまりにも鮮烈で、後に映画『ザ・セル』や漫画『ジョジョの奇妙な冒険』など、ポップカルチャーの世界でそのイメージが再生産されて、ハーストの名前を美術史に刻むことになりました。

そのハーストが2007年に制作した彫刻作品「神の愛のために」は、5000万ポンド(約120億円)の売り出し価格とともに披露されました。
2007年当時、絵画作品の最高売買価格はジャクソン・ポロック「No.5,1948」の1億4000万ドル(約160億円)でしたから、美術品としては最高ランクの価格で発表したことになります。

 

「神の愛のために」

 

とはいえ、実際に売れなければ、価格なんてあってないようなものです。
石や流木に何億円の価格をつけて売り出すことができても、売れなければ0円と同じです。
もちろんハーストの作品には買い手がつきました。といっても、購入したのはとある投資グループで、そのグループにはハースト自身も会員として加わっているようなので全面的には肯定しがたいのですが、売買実績があることは事実です。

しかし、なぜ「神の愛のために」は、そこまで強気な価格設定をすることができたのでしょうか。
その答えは原材料費にあります。

ハーストは、等身大の人間の頭蓋骨をプラチナ(白金)で作り、その表面に8601個のダイヤモンドを敷きつめたのです。
すべてのダイヤを合計すると1106.18カラットになります。
イギリスの大手宝石商の見積もりによれば、ダイヤモンドの価値はおよそ1200万ポンド(約29億円)で、ダイヤの加工などの技術料は100万ポンド(約2億円)になります。
つまり、価格の5000万ポンドのうち、4分の1が原材料費に当たります。これは飲食店で提供される料理と同じような原価率です。
ハーストは、あえて高価な材料を使うことで、自らの作品の価格を上げました。見事な逆転の発想といえるでしょう。

とはいえ、価格の5000万ポンド(約120億円)のうち、材料費がおよそ1300万ポンド(約31億円)画商の取り分が慣例通り半値の2500万ポンド(約60億円)だとしても、ハーストには1200万ポンド(約29億円)が残ります。作品をつくった芸術家としては十分に満足のいく金額でしょう。
全体の金額をかさ上げすることで、作家にも十分な取り分ができたのです。
もちろん、ハーストが単なる金目当てで作品を作ったわけではありません。「神の愛のために」にまつわる一連のエピソードには、芸術作品の価格はいくらが適当なのか、あるいは芸術を芸術足らしめるものは何か、といった問題提起が含まれています。

というわけで、美術品の価格を上げる一つの方法として、原価を高くすることが考えられますが、これは作家本人にしか使えない手段ですね。その話題性も含めて、ダミアン・ハーストの面目躍如となった作品と言えるでしょう。

ちなみにダミアン・ハーストは、2012年に米誌「コンプレックス」が調査した芸術家長者番付で、ダントツの1位でした(日本からは6位に村上隆)。
俗な言い方をするなら、最も稼ぐ芸術家です。芸術家にも、ビジネスの上手な人とそうでない人がいるのでしょう。

参考文献
サンディ・ネアン,2013,『美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い』白水社

 

 


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