アートコラム

絵画はどのように鑑定されるか?

2018/12/18

目の前の絵が真作か贋作は、どのように判定するのでしょうか。画商の勘と経験? 学者の智恵と知識?それとも科学の力?謎につつまれた絵画鑑定の世界に迫ったドキュメンタリー番組があります。その名は「Fake or Fortune?(偽物か財産か?)」。イギリスの公共放送BBCで、2011年から現在まで続く人気アート番組です。日本では「フェイク・オア・フォーチュン:絵画鑑定最前線」というタイトルで公開されています。

 

一般に絵画鑑定というと、作品自体の出来を玩味する印象がありますが、真贋の鑑定において最も重要なのは鑑定書と来歴です。画商をしていると実感するのですが、お客様の好みはさまざまなので、どのような作品であっても真作であれば買い手は見つかります。しかし、どんなに出来がよくても贋作の場合は駄目です。贋作と知りつつ、真作を騙って売ることは、画商の職業倫理に反します。

 

最も理想的な絵画の来歴とは、どの作家によっていつ描かれたもので、そこからどのような経歴をたどって、いま目の前にあるかが明確になっていることです。そのために必要なのは、画家自身の署名はもちろん、誰に譲渡したかの証拠となる手紙、取引記録、絵の裏に貼られた証紙などです。
絵が途中ですりかえられることのないよう、信頼できる画商やコレクターの収蔵だけを経ていれば、なお良いでしょう。ピカソの「アヴィニョンの娘たち」や、ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」のように、名画の多くは来歴がはっきりしているものです。

 

ルノワール
「アルジャントゥイユのボートレース」1874年
(同時期に描かれたよく似た絵)

さて、「フェイク・オア・フォーチュン:絵画鑑定最前線」は、シーズン1-2でルノワール作品の鑑定に取り組みます。問題のルノワールの絵画は、ウェールズの貴族フィリップ公の持ち物で、居城のピクトン城に飾られていました。しかし貴族とはいえ広大な城の維持は大変なもので、1960年代に大改修を行う際には、所蔵する絵画を売却して修繕費を捻出しました。このとき、絵に署名がなかったために売れ残ったのが、今回とりあげるルノワール「アルジャントゥイユの船着き場」です。

 

依頼人のニッキーによれば、その絵はもともとジヴェルニーのモネのアトリエにあったもので、曽祖父がモネの義理の娘ブランシュから買ったものだそうです。新たに城の修繕費が必要になったニッキーは、絵をオークションで売却しようとしたのですが、真贋が不明であるとオークション会社に断られました。印象派の権威であるウィルデンシュタイン画廊が真作と認めない限り、競売にはかけられないのだそうです。そしてウィルデンシュタイン画廊の鑑定結果はノーでした。理由は、絵にルノワールの署名がなく、来歴を示す書類もなく、画風もルノワールらしくないからだそうです。

 

しかし、持ち主のニッキーにも言い分があります。ルノワールのカタログ・レゾネを編纂したベルネーム=ジューヌ画廊が、その絵をカタログに掲載していて、絵は確かに真作だと保証しているのです。ベルネーム=ジューヌ画廊は、ルノワールの生前から本人と取引していた老舗画廊です。しかし、オークション会社は、ウィルデンシュタイン画廊の承認がなければ受け付けられないと言い張ります。

 

ここで登場するのが「フェイク・オア・フォーチュン:絵画鑑定最前線」の調査員です。彼らはこの絵画が真作であることの証拠を探して、まずフランスのベルネーム=ジューヌ画廊のカタログ・レゾネを調べます。その記述によれば、1937年にベルネーム=ジューヌ画廊がモネの親族から購入し、イギリスのトゥース画廊に売却したのだそうです。つまり、来歴のはっきりしている作品です。ベルネーム=ジューヌ画廊自らが仲介した作品ですから、真作判定にも自信を持っています。

 

さらに調査員は、イギリスのコートルード美術研究所で、トゥース画廊の取引記録を探します。台帳を調べると、1937年4月に8万5000フランでベルネーム=ジューヌ画廊から購入し、6月にニッキーの曽祖父であるローレンス卿に1630ポンドで売却したことが記されていました。残されている写真も、ニッキーの所有する絵画と一致しています。間違いありません。記録をたどる限り、この絵画はモネの家から出てきた真作です。

 

調査員は、絵が真作であることを確かめるために科学鑑定も行いました。絵をスキャンして使われている絵具を調べると、たしかに当時ルノワールが使っていたものと一致します。さらに赤外線照射によって、キャンバス地にあった画材商のスタンプを読み取ることができました。そのスタンプは1871~1879年に使われていたものです。ルノワールがこの絵を描いたとされるのは1874年。ぴったり一致します。

 

これだけ証拠が揃っているのに、なぜウィルデンシュタイン画廊は真作であると認めないのでしょうか。ここで明かされる理由は、とても人間らしいものです。ウィルデンシュタイン画廊は美術界の権威として、老舗のベルネーム=ジューヌ画廊に強い対抗意識を持っており、そのためにあえて反対意見を唱えているというのです。

 

ベルネーム=ジューヌ画廊は、この事実をテレビ番組で放送することに難色を示します。絵画に疑惑がかけられていることが公開されれば、その絵画を買おうとする人はいなくなるというのです。しかし、オークションにかけることができなければ、いずれにしろ絵は売却できません。悩んだ末にニッキーは、今回の調査で明らかになった証拠をウィルデンシュタイン画廊に持ち込み、再鑑定を依頼します。はたして再鑑定の結果はいかに?

 

「フェイク・オア・フォーチュン:絵画鑑定最前線」は、絵画に興味を持つ人であれば誰もが面白く観られる番組だと思います。日本ではネットフリックスで観ることができるので、興味を持たれた方は是非ご覧ください。

 


芸術はよくわからない、アートは難しいなどと思っていませんか?

絵画の価格はどうやって決まるのか、画商の視点でわかりやすく解説。
読後はアートを身近に感じて美術館に行ってみたくなるはずです。

 

「値段」で読み解く 魅惑のフランス近代絵画

 

単行本:302ページ
出版社:幻冬舎
著者:髙橋芳郎

 

価格:1,400円(税別)
全国有名書店、amazonでもご購入いただけます

 

amazonページはこちら >>

 

翠波画廊でも発売中! ※通常配送料無料

新聞、雑誌でも紹介されています!

「サンデー毎日」

本とのふとした出会いで幼いころの自分を思い出す
幼いころ、絵画鑑賞が趣味だった母に連れられて、よく展覧会を訪れた。・・・

「月間アートコレクターズ」

世に美術市場を扱った書は数あるが、印象的なタイトルと装丁家として日本を代表する鈴木成一の手になる雰囲気ある装丁の本書は、翠波画廊を構える髙橋氏の書き下ろし。・・・

「北日本新聞」

セザンヌ、モネ、ルノワールやゴッホ、ピカソ、シャガールら近代美術の巨匠たちの絵の値段について考えたことはあるだろうか。・・・

 

 

コラム一覧に戻る