アートコラム

ダリとダリ夫人の奇妙な関係

2019/05/02

シュルレアリスムは直訳すると超現実主義となりますが、現実を超えるというよりは、どちらかといえば、非現実の不思議な絵で知られています。
特にその傾向が顕著なのがサルバドール・ダリです。
竹馬のような細長い足で関節の多い象、チーズのように柔らかく溶けた懐中時計、引き出しのついた人体の太腿など、その奇妙奇天烈なイメージは多くの人を魅了しています。
さらに、自らを「天才」と呼び、常にインタビュアーを煙に巻くような受け答えを行うなど、奇矯な芸術家のイメージを自ら作り出すことにもダリは熱心でした。
細く伸ばした髭を水飴で固めて逆立てたダリの写真は、芸術家がその作品ばかりではなく自らの姿をもアート化した例として有名です。
今回はそんなダリの数々の逸話をご紹介しましょう。

 

行き過ぎたパフォーマンスで死にかけたダリ

1936年、32歳のダリは、ロンドンで開催された国際シュルレアリスム展で講演を行いました。
何とかして聴衆にインパクトを与えたかったダリは、コスチュームとして深海用の潜水服を着て登壇しました。
当時の潜水服は鉄でできた密閉型の重いもので、今でいえば宇宙服のようなイメージです。前面のガラスを通してかろうじてダリの顔が見える程度です。
登壇したダリは、講演と称して声高に何事かをしゃべりますが、密閉された潜水服にさえぎられてその声は聴衆にとどきません。確かにスピーチをしているのに声がまったく聞こえない。ここまでがダリの計算したパフォーマンスでした。
硬い時計なのに柔らかいとか、髭なのに重力にさからって上を向いているとか、講演なのに何も聞こえないとか、ダリはこのような逆説的な表現を好みました。
ところが、ここでダリの予想を超えた出来事が起きます。潜水服は通常、背負った酸素ボンベによって空気を補給しますが、地上で酸素ボンベは重すぎるため、ダリはそれを外していました。当然、密閉された潜水服の中の酸素はどんどん薄くなります。
息が苦しくなってきたダリは慌てて潜水服のマスクを外そうとしますが、なかなか外れません。聴衆は、そのダリの動作すらもパフォーマンスの一部だと思って大笑いします。ダリが必死になって「助けてくれ」と叫び、のたうちまわるほど観客の笑い声は大きくなります。
さすがにくどすぎる演技に「何かおかしい」と気づいたスタッフが助けてくれましたが、そうでなければダリはここで死んでいました。

 


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ダリとデヴィッド・ボウイの奇妙な関係

そのパフォーマンスが話題になっていたダリは、生前はマスコミの寵児としてセレブリティな生活を送りました。
その私生活もセレブらしく奔放なものでした。ダリとガラは仲睦まじい夫婦でしたが、晩年は別居するなど生活は別々に送っていました。
そして、ガラには若いボーイフレンドがいましたし、ダリにもアマンダ・リアという若い愛人がいました。
ダリよりも40歳近く若いアマンダは、1965年にローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズの紹介でダリと出会い、ガラ公認の愛人になります。アマンダはダリの出向くところにいつも付き従い、社交界の花となりました。
やがて1974年、アマンダはデヴィッド・ボウイと恋仲になり、1975年にはボウイの勧めで歌手デビューまで果たします。このアマンダのレコードは、アンディ・ウォーホルの絶賛もあって世界中で大ヒットしました。当時を知る人は、「ディスコ・クイーン」と呼ばれたアマンダ・リアのことを覚えているでしょう。
興味深いのは、お互いに愛人がいても、ダリとガラが強い絆で精神的に結ばれていたことです。
ガラは1982年に87歳で亡くなりました。ガラを失ったダリはひどく落胆して、自殺未遂をはかって大怪我をし、以降は絵を描かなくなったそうです。
最後はパーキンソン病に悩まされていたダリは、1989年に84歳で亡くなりました。

 

2019年にダリが生きかえった?

生前は人気画家だったダリには、数多くの美術館があります。
最も有名なのは、スペインのカタルーニャ州フィゲラスにあるダリ劇場美術館です。フィゲラスはダリの生まれ故郷です。この地にあった15世紀の市民劇場が廃墟となっていたのを、ダリが買い取って自分の美術館として再生したのです。
生前のダリが作ったのですから、美術館自体がダリの作品と言えるほどアートなものになりました。建物の上には、ダリがモチーフとして好んだ卵のオブジェが並び、建物の中にはあの有名な「メイ・ウエストの顔のシュルレアル・アパート」が再現されています。
この美術館にはダリの墓もあり、実物のダリの亡骸が埋葬されています。
スペインにはほかに、ダリが住居兼アトリエとして使っていたポルトリガトの家を使ったダリの家美術館。ダリの妻のガラが住んでいた城を利用したガラ・ダリ城美術館などがあります。
スペイン国外で最も規模が大きいダリ美術館は、アメリカのフロリダにあるサルバドール・ダリ美術館です。
ここでは、新しいことや珍奇なことを好んだダリにならって、奇抜な企画をたびたび開催しています。
2016年の企画「ダリの夢」では、最新のテクノロジーを使ってダリの絵の仮想現実空間を作り、その中に鑑賞者が入れるようにしました。
また2019年の企画「ダリは生きている」では、数多く残されたダリの映像をAIで解析して、まったく新しいダリの映像を作りあげました。コンピュータによって合成されたとは思えないほどリアリティーのあるダリが「私は帰ってきた」と語る映像は、現在ユーチューブで見ることができます。

 

ちなみに、日本でダリの作品所蔵数が最も多いのは、福島県の諸橋近代美術館で、約400点のコレクションがあります。世界規模でみても第4位の作品数を誇る同美術館では、4月20日から開館20周年企画展として『シュルレアリスムとダリ』を開催しています。お近くの方は足を運んでみてはいかがでしょう?

 


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