アートコラム

どんな画家が、紙幣の顏になっているの?(4)アジア・英米編

2019/02/05

紙幣の肖像は、その国の顏です。
たとえば日本の場合、福島の貧農に生まれて、事故で障害者となったものの、刻苦勉励して渡米し、ノーベル賞候補となった学者の野口英世が千円札になっています。日本ではまだ例がありませんが、海外では画家が選ばれることもよくあります。フランスではセザンヌ、イタリアではラファエロ、オランダではレンブラント、ノルウェーではムンクなどが紙幣に登場していました。それぞれの国に、それぞれの国の誇る画家がいるのです。
今回は、ヨーロッパ大陸以外の紙幣に描かれた画家をご紹介します。

 

ヨーロッパから東に向かって黒海を越えるとコーカサス地方になります。南コーカサスのジョージア(グルジア)では、放浪の画家ニコ・ピロスマニが紙幣に描かれています。彼は、その生涯が何度も映画化されるほど、ジョージアでは人気のある画家です。ピロスマニも、エコール・ド・パリの同時代画家として当コラムで紹介したことがありますが、彼はクリムトと同い年で、エコール・ド・パリの主流派に比べると年上の画家になります。

 

ジョージア1ラリ紙幣(ニコ・ピロスマニ)

ピロスマニ(1862-1918)「小鹿」

 

大西洋を越えてアメリカ大陸に渡りましょう。
中米ではメキシコの紙幣に、ディエゴ・リベラとフリーダ・カーロ夫妻が登場しています。二人とも言わずと知れた有名画家で、特にカーロの波乱万丈の人生は映画化されて親しまれています。リベラはユダヤ人を祖先に持ち、カーロの父親もドイツ生まれのハンガリー系ユダヤ人で、ユダヤ人芸術家の多かったエコール・ド・パリの画家との交流がありました。年齢的にも、リベラは藤田嗣治と同じ年、カーロはレオノール・フィニと同じ年に生まれています。

 

メキシコ500ペソ紙幣(ディエゴ・リベラとフリーダ・カーロ)

ディエゴ・リベラ(1886-1957)の壁画

フリーダ・カーロ(1907-1954)「二人のフリーダ」

 

南米ボリビアでは、日本での知名度は高くありませんが、画家セシリオ・グスマン・デ・ロハスが紙幣の顔になっています。セシリオ・グスマン・デ・ロハスは、スペイン人の父親とボリビア人の母親のもとに生まれ、20歳からスペインやフランスなどに留学して最先端のアートを学んだインテリです。故郷に戻ってからは先住民芸術運動のリーダーとして、ボリビア絵画の発展に尽くしましたが、名声の頂点に達した50歳で自殺しています。ロハスは佐伯祐三と1歳違いでした。もしかすると、パリで藤田や佐伯と出会っていたかもしれません。
ちなみにボリビアは日本からの移民が多い国で、日本人町もあり、現在もなお1万人近くの日系人が暮らしています。

 

ボリビア10ボリビアーノ(セシリオ・グスマン・デ・ロハス)

セシリオ・グスマン・デ・ロハス(1899-1950)の絵

 

アメリカ大陸においては、大国アメリカの紙幣に触れないわけにいかないでしょう。
実は、アメリカは日本と同じく、紙幣に画家が印刷されたことがありません。アメリカ同様に英語を母国語とするイギリス(イングランド)も、画家にとっては受難の国で、これまでは画家の紙幣が存在しませんでした。その代わりというわけではありませんが、イギリス連合王国を形成するスコットランドの紙幣には、建築家・画家・デザイナーのチャールズ・レニー・マッキントッシュが登場しています。実はスコットランドやアイルランドでは、中央銀行ではなく各地域の市中銀行が紙幣発行権を持っていて、その地域の独自紙幣を使っているのです。しばしばスコットランドで独立が話題になるのも無理からぬことですね。ちなみにマッキントッシュはマチスと1歳違いで、フランスのアール・ヌーヴォーの影響を受けていました。花のデザインで人気だったチャールズ・レニー・マッキントッシュの名前は、現在、薔薇の品種名としても残っています。

 

スコットランド100ポンド紙幣(チャールズ・レニー・マッキントッシュ)

チャールズ・レニー・マッキントッシュ(1868-1928)の絵

 

そんなイギリスですが、2020年のポンド紙幣のリニューアルで、ついに画家の肖像を採用することになりました。これまで経済学者アダム・スミスが使われてきた20ポンド紙幣の肖像に新たに芸術家を登用することを決定し、候補者を一般公募したのです。映画監督のヒッチコック、俳優のチャップリン、ピーター・ラビットの画家ポターなどを抑えて最終的に選ばれたのが、19世紀の画家ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーです。ターナーはイギリスの国民的画家で、その人生は2015年の映画『ターナー、光に愛を求めて』にも描かれています。また、ターナーの躍動感あふれる絵は、フランスの印象派にも影響を与えました。

 

ターナー(1775-1851)「自画像」

ターナー「ミノタウルス号の難破」

 

残念ながら日本では、まだ画家の紙幣への採用の例がありませんが、将来、選ばれるとしたら誰になるでしょうか。
1998年に雑誌「LIFE」が特集した「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」に、日本人で唯一選ばれた葛飾北斎が最右翼ではないかと思います。北斎の絵は、19世紀フランスに伝わってジャポニスムの流行を生みました。モネもドガもゴッホもゴーギャンも日本の浮世絵に触発された絵を多数残しました。2017年には大英博物館で個展「Hokusai: Beyond the Great Wave」が開催され、2018年には、そのドキュメンタリー映画『大英博物館プレゼンツ 北斎』も公開されています。また、2019年現在は、六本木の森アーツセンターギャラリーで『新・北斎展HOKUSAI UPDATED』、すみだ北斎美術館では北斎の描いた動物を集めた『北斎アニマルズ』展が開催されています。北斎の人気は右肩上がりです。現在の日本の紙幣は2004年から使われているので、そろそろリニューアルの時期です。次の紙幣がどうなるか楽しみですね。

 

葛飾北斎(1760?-1849)「自画像」

葛飾北斎「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」

 

 


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