アートコラム

どんな画家が、紙幣の顏になっているの?(2)欧州編

2019/01/23

多くの国で、その国を代表する偉人の肖像画が紙幣に使われています。
たとえばタイではすべての紙幣に国王の肖像が描かれています。2016年に前国王が崩御して新国王が即位したため、紙幣もすべて刷新されました。
昔のイラクの紙幣にサダム・フセインが、リビアの紙幣にカダフィ大佐が描かれていて、政権交代とともにリニューアルされたのも記憶に新しいところです。
以前は日本の紙幣にも、伊藤博文や聖徳太子といった政治家の肖像が使われていましたが、80年代からは夏目漱石や福沢諭吉など文化人が多くなりました。これは世界的な傾向であり、各国の紙幣には、自国を代表する文化人の肖像を採用する傾向が強くなっています。
今回は世界の紙幣の中から、その国の誇れる画家を探してみました。

 

前回は、イタリアの紙幣を紹介しました。
イタリアはカラヴァッジオやラファエロなど数多くの画家を自国の誇りとしていて、これまでにダ・ヴィンチやミケランジェロを含む9人の画家を紙幣に採用してきました。

 

一方、芸術の国フランスはどうかといえば、わずか3人しか登場していません。
といっても、フランスが画家を冷遇しているわけではありません。
イタリアの9人が例外であって、どの国でも画家は多くて2人程度しか採用されていないのです。
文化人には画家だけではなく、小説家も音楽家も学者もいますからね。
ちなみに日本の紙幣における画家の人数は、2019年現在、ゼロです。

 

では、フランスで選ばれた2人とは、いったい誰でしょうか?
モネでしょうか? ルノワールでしょうか? それともマチス?
答は、そのいずれでもありません。
フランスの紙幣に登場する画家は、18世紀のモーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールと、19世紀前半のドラクロワと、19世紀後半のセザンヌです。

 

フランス50フラン紙幣(モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール)

モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール(1704-1788)「ポンパドゥール侯爵夫人の肖像」

 

フランス100フラン紙幣(ドラクロワ)

ドラクロワ(1798-1863)「民衆を導く自由の女神」

 

ちなみに、フランスの紙幣に登場するその他の人物は、政治家ではナポレオンとアンリ4世、哲学者ではパスカルとモンテスキュー、音楽家ではドビュッシーとベルリオーズ、劇作家ではラシーヌとコルネイユ、小説家ではユーゴーとサン=テグジュペリ、科学者ではキュリー夫妻と、いずれもスター揃いです。
現在は、イタリアもフランスも統一ユーロ紙幣に代わってしまったので、これらの紙幣を見ることはできません。セザンヌの紙幣など、作品のイメージが随所にあしらわれていて、とてもお洒落だったので残念です。

 

フランス100フラン紙幣(セザンヌ)

セザンヌ(1839-1906)「カード遊びをする人々」

 

次に、フェルメールやゴッホを生んだオランダの紙幣を調べてみましょう。
オランダ絵画は17世紀に黄金期を迎え、世界一の繁栄を誇りました。その時代の画家が2人、紙幣に選ばれています。

 

オランダ1000グルデン紙幣(レンブラント)

レンブラント(1606-1669)「自画像」

 

一人目はレンブラントで、二人目はフランス・ハルスです。
紙幣の発行された時期が異なるためデザインが大きく違いますが、どちらもユーロ加入前にオランダが発行していたギルダー紙幣です。
昔のレンブラントの紙幣に比べて、新しいフランス・ハルスの紙幣はモダンなデザインですね。

 

オランダ10グルデン紙幣(フランス・ハルス)

フランス・ハルス(1581?-1666)「陽気な酒飲み」

 

それでは、かつてオランダとともにネーデルラント連合王国を形成していたベルギーの紙幣はどうなっているでしょうか?
現ベルギー領で活躍していた大画家には、ブリューゲルやルーベンスがいますが、当時はまだベルギーとして独立前だからでしょうか、紙幣の肖像には避けられているようです。
代わって、ベルギーを代表する画家として選ばれたのは、ジェームズ・アンソールとルネ・マグリットという、2人の近代画家です。

 

ベルギー100フラン紙幣(ジェームズ・アンソール)

ジェームズ・アンソール(1860-1949)「陰謀」

 

近代の人物が選ばれたのは、ベルギーの独立が1830年と、新しいためかもしれません。
どちらも代表作の図案があしらわれた素敵な紙幣です。
アンソールはミュシャ、マグリットは佐伯祐三と同年齢ですが、どちらも当時の美術の最先端だったパリの影響をあまり受けず、独自の路線を歩みました。

 

ベルギー500フラン紙幣(ルネ・マグリット)

マグリット(1898-1967)書籍『Magritte: Attempting The Impossible』(Siegfried Gohr)

 

近代画家といえば、ノルウェーの紙幣を忘れることができません。
同国で圧倒的な知名度と人気を誇るエドヴァルド・ムンクがいるからです。
ムンクはフランスで言えば新印象派のシニャックと同い年で、パリにも留学して印象派の絵に影響を受けました。
2018年から19年にかけて、日本でも「ムンク展―共鳴する魂の叫び」(東京都美術館)が開催され、来場者が50万人を超えたことがニュースにもなりました。

 

ノルウェー1000クローナ紙幣(エドヴァルド・ムンク)

ムンク(1863-1944)「太陽」

 

また、スロベニアでは、印象派に影響を受けた近代画家リハルド・ヤコピッチが紙幣に採用されています。
リハルド・ヤコピッチについては、エコール・ド・パリの同時代画家として、当コラムでも以前に紹介したことがあります。
正確に言えば、ヤコピッチはマチスと同い年で、エコール・ド・パリの画家よりもやや年長世代にあたります。

 

スロベニア100トラール紙幣(リハルド・ヤコピッチ)

ヤコピッチ(1869-1943)「日向の川沿い」

 

以上のうちノルウェー以外の4か国は、欧州統一通貨ユーロに移行したので、もう独自の紙幣は使われていません。
ユーロの紙幣は、図案がどこかの国に偏ることがないよう、ヨーロッパ共通の文化である建築様式をテーマに、架空の建築物をテーマにしています。

 

旧10ユーロ紙幣(ロマネスク様式の架空建築物)

近年、偽札防止のためにリニューアルされましたが、ほぼデザインは同じです。
紙幣から人物が消えるのは寂しいですが、これも時代の流れでしょうか。

 


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