Vol. 5 フランス革命記念日に思う

2015/08/27

Le 14 Juillet, au jour de la Révolution française

 

またきのこ4

7月14日、シャンゼリゼ通りで行われた革命記念日の
軍事パレード(写真AP通信)

 7月14日の朝早く、頭の上を突然ゴォォーーーッという爆音に近い物騒な音が通り過ぎて飛び起きる。パリは年頭に国中を震撼させたイスラム過激派による 連続テロ事件があったばかりだ。そうでなくとも何が起こってもおかしくない今の世の中、とうとう「その日」が来たか!などと一瞬本気で考え、勢いよく窓を 開ける。すると、雲一つない青空に小型ジェット機が一機、白い煙帯を棚引かせ垂直に昇って行くのが見える。続いて一機、さらにもう一機。三機のジェット機 は間隔を置いて平行に飛行し、器用にくるりと方向を変えて旋回した後、その航跡を空に描くように青、白、赤のスモークを勢い良く放った。ブラボー!ドラポー・トリコロール(フランス三色旗万歳)!どうやらパリが襲撃にあったのではないらしい。この日はフランスの国民祭、共和国成立の日を祝う「キャトーズ・ジュリエ(Quatorze Juillet:7月14日)」だった。一般には革命の発端となったバスティーユ監獄襲撃(1789年)にちなんで「フランス革命記念日」「パリ祭」(日本)「バスティーユ・デイ」(米)などの名前で知られているが、フランス国内ではそのまま「キャトーズ・ジュリエ(7月14日)と呼ぶことが多い。 あれから幾世紀が過ぎたとはいえ、この日があってこそ「自由・平等・友愛」の精神を掲げる現在のフランスがある(とフランス国民なら多少なりとも考えるだ ろう)フランス共和国建国の日であり、一年で最も華やかな国民のお祭りの日なのだ。

 

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《パリ・モントログイユ通り、1878年6月30日の
祭日》クロード・モネ画。 この日公式決定により
共和国成立を讃える祝祭が開かれる。

 革命記念日の午前中は毎年シャンゼリゼ通りで大統領が指揮をとる軍事パレードが行われるが、朝見た見事なジェット機の飛行ショーはフランス空軍のアクロバット飛行チーム《パトロイユ・ド・フランス》による演技飛行だった。コンコルド広場から凱旋門まで、パレードは陸軍士官学校と海軍兵学校の生徒の行進で始まり、続いて共和国親衛隊、パリ消防工兵旅団、フランス国家警察、そして行新の最後はフランス外人部隊が努める。近年においてはフランスの同盟国の要人を招待するのが慣例になっているが、2014年には第一次世界大戦開戦100年を記念とし、参戦した国約80カ国の代表がパレードに招待された。今年は第二次大戦終結70年を記念して、対ナチス・ドイツ抵抗運動(レジスタンス)を支援した活動家(の生き残り!)なども招待されて話題になった。国家マルセイエーズに合わせた約3500人余りの陸、海、空の軍人、軍用車の行進に、シャンゼリゼの沿道に集まった大勢の見物客からは大きな歓声が浴びせられる(今年はフランス全土にテロ警戒の要員を割いたため、パレードに参加した軍人、軍用車は例年より1−3割の削減だったらしい)。

 

 とはいえ、このパレードを観覧するというのも楽(らく)なことではない。普段の何もない日でさえ世界中から観光客が集うパリ、シャンゼリゼ通りである。この日早朝から起き出して早々と通りの前列を陣取り、パレードが始まるまでの数時間そこでじっと待機するエネルギーが貴方にあるならば、或は小さな子供(この場合男の子が好ましい)を肩に乗せ、「この子に本物の戦車と騎兵隊を見せてやりたいんです!」と人ごみを前へ前へと分け入って行く根性があるならば、或は軍、政府関係に特別なコネクションを持ち、パレードの目玉ルクレール戦車の後部席に特別観覧席を確保出来る(!)などとと言うなら話しは別である。だが、そのいづれでもない人々—今日はせっかくの祝日なんだからゆっくり朝寝坊もしたい、けれどパレードも気になるな—などと考える至極普通の人々はどうするか?心配ご無用。この日ばかりはフランス国営放送および主要TVチャンネルの殆どが時間かっきりに特番を組み、トリコロールの軍服を身に纏った騎兵隊の(訓練の賜物)一糸乱れぬ行進、遠目では解らない若き士官学校生徒らの緊張した面持ち、オランダ大統領のいかにも感慨深げに三色旗を見あげるその表情(時に解読不明の煮え切らない笑顔など)を望遠カメラですかさず捕らえ、込み入った内外の政治事情解説なども交えて実況中継してくれる。

 

 そんな訳で、ちょうどチャンネルを捻ったところ《パトロイユ・ド・フランス》のジェットアクロチーム初の女性パイロットリーダー、ヴィルジニー・ギヨ少佐が飛行前のインタビューに答えていた。金髪の髪を後ろで纏めたまだマドモワゼルかと思う程若々しい感じの女性パイロットだ。「今日の調子はどうですか?」(インタビュアー)「天気も良いし風も余りない、良い演技飛行が出来そうだわ」とこれから親善試合に望むスポーツ選手のように爽やかに答えるギヨ少佐。と、ここでふと考える。彼女は民間のアクロバット飛行士でなくフランス空軍の軍機専用パイロット(=軍人)だ。そして「演技飛行」とはそもそも何なのか。革命記念日のため軍が国民へ特別サービスする行事のようなものなのだろうか?もともと航空史においては運動性の高い戦闘機が考案された第一次大戦以降、その機動能力(上昇や急降下、低空を高速で降下するなど)、パイロットの曲技飛行を地上の観衆に披露するようになったという。現代の空軍アクロバットチームは、各国(空軍、陸軍)における事実上の広報部隊として設置され、最先端操縦技術の開拓、練成、かつ外国に対しての自国の練度を示威する目的もあって定期的に演技飛行を行うという。革命記念日の演技飛行に関しては、年々その飛行内容もショーアップされ、地上から眺める我々は航空技術の進歩とパイロットの技にただ舌を巻き楽しむのだが、実際は政治的目的も孕んだ軍の活動の一環ということだろう。

 

 フランスではかつて18才から22才の男子に1−2年の兵役の義務が課されていたが、軍隊の職業化を目指したシラク前大統領の努力により国民役務改正法が出され、2001年には徴兵制度は完全に廃止された。現在はその代案として授けられた《国防教育の日》の勉強会参加(一日のみ)が16才から18才の青年男女に義務づけられており、事実上軍入隊は志願制(男女共)となっている。そうするとこの若き女性パイロット、ギヨ少佐も自分で志願して軍に入ったことになるが、彼女のインタヴューをもっと聞いてみたかった。アクロバット専門チームの飛行士になる位だから、単純に高技術での航空機の操縦が出来る場所を求めていたのかもしれない。
 日本ではこの時期ちょうど安保法案に関しての議論が政府、国民の間で加熱していた。勿論歴史、政治的背景が全く異なるフランスと日本の問題を同列に語ることは出来ない。しかしヨーロッパの先進国であるフランスと云う国がつい最近まで徴兵制を保持し続け、それが冷戦後ついに廃止しされ志願制となったことは、結果フランス国民に国防について(義務ではなく)新たな選択の権利を広げた。実際青年、特に女性の志願兵が増えているのである。このことは今を生きる者として、日本の今後の選択を考える相対的事例にはなると思う。

 

 さて、午前中の軍事パレードが終わると一端休憩である。この日は7月6日から始まったツール・ド・フランス(自転車プロ、フランスロードレース)がレース半ばの佳境を迎え、特に14日を目指して勝利を狙うフランス出身選手が多いので応援にも熱が入る。その他あちこちで野外コンサート、バル(ダンスパーティー)などの催しがあり、夜になってフランス全土で一斉に打ち上げられる花火のクライマックスの時まで盛りだくさんなのである。この革命記念花火ショー見物の場所取りもまた熾烈を極める。

(文/写真 河村真奈)

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