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挿画本

 

19世紀に版画よりも遥かに再現性の優る写真が発明される以前は本の挿絵を担っていたのは版画でした。

もともと版画が画家の表現手段となる前は、主として名作絵画の複製や百科事典に代表される書物の挿絵として制作されていました。もともとその様な歴史を背景として、当時の画商のアンブロワーズ・ヴォラールの発案で人気の高い文学作品に画家が版画の挿絵を挿入し出版することが始められます。


akunohana,jyunan▲ルオー「悪の華:受難」

 

ボードレールの「悪の華」にルオーが、バルザックの「知られざる傑作」にピカソが、また「聖書」にシャガールが物語のテーマに沿った版画を制作し挿画本として出版されました。

その挿画となる版画には物語に沿った挿絵ではなく、その画家ならではの個性と質の高い芸術性が要求されましたが、どの画家もテキストとして選んだ文学作品に触発されつつもテキストに負けることのない密度の高い版画を制作しました。

 

今日の巨匠ピカソ、マチス、シャガール、ルオー、藤田嗣治などが挿画本の挿画として制作した版画は、テキストに基づきながらも、挿画の域を超え一点一点の版画が独立しても存在し得る高い完成度と芸術性を備えているがために、近年ではセットがバラされそれぞれが単品作品として売り買いされています。

 

 

当時作られた挿画本は、活字が印刷された物語の途中途中に画家のオリジナル版画が挿入され、最後のページに細かな仕様、出版元、制作年、限定数などが記載され、その奥付ページで完結します。奥付には版画を制作した画家の署名がなされることもありました。

そのため挿画本として制作された版画1枚1枚には、サインやエディションが無いことが一般的です。しかし、挿画本の挿画として作られた版画は、本のサイズや物語の内容に合わせなければならないなど、多くの制約の中で試行錯誤の末に完成した実験性の強い作品が多く残されています。

okuduke_1▲藤田嗣治「小さな職人」奥付。藤田の直筆サイン、エディション、エディションごとの説明が記載されている。

 

 

dafunisutokuroefireetasunokajyuenn▲シャガール
「ダフニスとクロエ:フィレータスの果樹園」

シャガールであれば「アラビアンナイト」「ダフニスとクロエ」「サーカス」などのシリーズは特に人気があり、美術館でシャガールの版画展が開催されれば必ず展示され、シャガール版画を語る上で欠くことのできない作品です。

ルオーの「サーカス」「悪の華」「受難」なども本来挿画本として出版されたため、一枚一枚の版画にはサインがありませんがルオーの版画の代表作として大変人気があります。

テキストから大きく逸脱できないという制約の受けながら苦心したことがかえって版画の質を高めたのだと言えます。その様なことから挿画本として出版された版画にはサインが無くとも質の高い版画が多いということがお解りいただけると思います。

 

 

 

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