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パリ通信

Vol.8 芸術の神の住む場所 ニース(1)

-Lieu où la divinité de l’art se présente (Nice)-

プロムナード・デ・ザングレを散歩する人々(1920年頃)
左上に描かれているオレンジのドーム型のパレスが ホテル・ネグレスコ

 七月十四日(革命記念日)の夜、南仏のニースで起きたトラックテロは、八十六人の死亡者と二百二人の負傷者を出すフランスで二度目のテロ犯罪事件となってしまった。皮肉にもこの日の昼過ぎ、昨年十一月に起きたパリ同時多発テロを受けて発令されていた《非常事態宣言》をこの七月二十六日付けで解除するとオランド大統領は明言したばかりだった。悪夢の日は過ぎた、これからは「非常事態ではない普通の日々」を送っても良いのだと、皆(とりあえずは)胸を撫で下ろしたことだろう。今年になってからテロ関連による追悼のため、ベルギー、合衆国オーランド、トルコと既に三度も犠牲国の国旗に(或はLGSTを表すレインボーカラーに)色替えをして来たエッフェル塔。哀しいかないつしか「テロ追悼碑」のようになってしまっていたエッフェル塔だったが、この日は革命記念を祝うため派手に打ち上げられたスペクタクルな花火をバックに、九ヶ月ぶりに本来のフランス国旗の三色カラーに明るく輝いた。そしてまた皮肉な話なのだか、事件を知るほんの数十分前、ふと思い立ち私は南仏ニース行きの航空券を検索していたのだ。悪天候が続いたパリに居て南仏の明るい陽射しが恋しくなっていたし、ニースで暮らす友人にも久しぶりに逢いたかった。八月のニース、イタリアを思わせる旧市街の黄や赤茶の塗り壁や、シミエの丘から見下ろす美しい街並みを思うと胸が躍った。野外の花火見物から帰る人々の喧噪も途切れ、友人には明日の朝電話してみようと一旦検索を止めて、テレビのチャンネルをひねった。画面には夜の街を叫びながら散り散りに逃げ惑う人々の姿が映し出された。サイレンの音がけたたましく鳴っている。爆発事故でも起きたのだろうか?現場のレポーターもまだ何か起きたのかはっきりと把握出来ていない様子だが、死者が多く出ているらしい。テロ関連の事件の可能性が高い、とも言っている。場所はどこなのか?画面の下に表示された”NICE (ニース)”の四文字が眼に入り、鼓動が早くなる。良く知っている景色だ、そこはプロムナード・デ・ザングレと呼ばれるニースの海岸沿いの大通りだった。

 八月のニース行きの計画は突然中断となった。幸い現地に住む友人もその近親者を含め被害はなかったが、事件の場所は生々し過ぎてしばらくは行きたくないと言った。ヴァルス首相は事件の翌日の政府緊急会議の後「フランスはテロの脅威に決して屈しない。これ以上のテロは決して許さない」と述べ、十七日には再びフランスの結束を呼びかけたが群衆からは激しいブーイングを浴びた。一旦解除となった《非常事態宣言》は結局来年の一月までの再延長が上院で可決され、治安当局は捜査執行権限強化の項目を新たに増やしたが、サルコジ前大統領は過去十八ヶ月にわたってフランス政府はやるべき事をやっていないとオランド大統領を非難し、事件直後に行われた世論調査によれば、政府が十分なテロ対策を講じていないと考える有権者は全体の七割を占めるに至っている。

 今回の事件は革命記念日の夜にニースで起きたテロ犯罪事件として、プロムナード・デ・ザングレの名前と共に人々に記憶されていくだろう。今改めてその事を思うと、なんともやるせない気持になる。コート・ダ・ジュールの淡青の海に沿って見事なパースペクティヴを描くこの美しい通りを知る人は少なからず同じような感情を抱くと思うが、これほどテロとかけ離れたイメージの場所もなく、とりわけ多くの美術愛好家たちにとっては特別な磁場を持つ場所でもあるからだ。

 プロムナード・デ・ザングレとはフランス語で《英国人の散歩道》を意味するが、その歴史は十八世紀後半に遡る。ニースがイタリアから割譲された一八六〇年にフランスに統合され都市化される以前は小石に覆われる寂れた海岸だったこの地域に、温暖な気候と独特なカーブを描くその地形のせいで一年中爽やかな風が吹くことから英国人の富裕層がここで冬を過ごすようになる。やがて彼らの提案によって海岸に沿った遊歩道の建設計画がなされたことからプロムナード・デ・ザングレ《英国人の散歩道》と呼ばれるようになった。続いて十九世紀以降は高級パレス(ホテル)の建設も伴いヨーロッパ各国の富裕層が集まる冬の避暑地として発展して行くことになる。その中でも一際眼を引くのがルーマニア人のアンリ・ネグレスコが造ったパレス(宮殿)ホテル・ネグレスコである。当時世界のホテルのエッセンスを極めて造ったと云われたこのホテルは*、一九一三年の創業以来社交界のシンボルとして一時代に君臨することになる。プロムナード・デ・ザングレにはその頃の通りの様子を描いた油彩画のパネルが立て掛けられているが、時代の先端のドレスを身に纏った人々が優雅に往来する光景はベル・エポックそのものである。

«»に続く)

* ホテルネグレスコは一九七四年にフランス政府により永久史跡として指定されている。

 

(文/写真 河村真奈)


河村 真奈

河村 真奈

[ Mana Kawamura ]
多摩美術大学油画・版画専攻卒業後、1992年に渡仏。レンブラント、ゴッホ、印象派の研究で知られる美術史家パスカル・ボナフ氏に師事し、パリ第八大学で博士号前課程DEAを取得。その間ヨーロッパでの生活経験をもとに、旅、美術、食文化などをテーマにした紀行文やフォトエッセイを発表する。2005年日本旅行作家協会主催エッセイ大賞受賞。パリでは日仏児童を対象にした《日本語よみきかせのアトリエ》や美術とフランス語に親しむ文化講座を主催している。2013年よりブリュッケ(翠波画廊)パリスタッフとしても活躍、フランスからアート情報を届けている。

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