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パリ通信

Vol.7 年越しのツリー

-Sapin de Noêl, après le nouvel an…-

 

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 ここ数年、年末年始の休暇は日本で過ごすことが多いが、お正月の三が日も過ぎてそろそろパリに戻ってくると、決まって眼にする悲しい光景がある。ドゴール空港からの帰路、パリ市内に近づくにつれて眼に入って来る、ここにも、ほら、あそこにも。歩道の脇にごみポリ袋等と一緒に無惨に投げ捨てられたモミの木の姿だ。針葉樹特有のぴかぴかした濃い艶やかな緑は色褪せ、グレーにくすみ、枝は四方無差別にへし折られ、もぎ取られた古箒(ふるぼうき)のようなモミの木に、もはやかつての面影はない。そう、あれはすでに過ぎ去りし日の姿、とはいえ、まだほんの数週間程前のことだ。街中がイルミネーションで輝く一年でもっとも華やかなあの季節、彼らこそが街の主役だった。

 今年のカレンダーも残りあと数週間、花屋の店先に肩を寄せ、並べられた若いモミの木は、ノエル(クリスマス)の舞台の出番をそわそわと待つバレエ学校のダンサーたちのように初々しかった。客人のマダム、ムッシュー、子供たちが、枝をひっぱったり葉の匂いを嗅いだり、やれボリュームが足りないの、背丈がもう一つだのあれやこれや言いながら、楽しげにその年、彼らの家に迎えるサパン・ド・ノエル(クリスマスツリー)を物色する。おそらく年に一番の繁盛期、注文の多い客人の相手をしながら普段より幾らか楽しそうに見える店の主人。スーパーで見かけたモミの木の方が安かったって? うちは毎年ピレネーの山奥からわざわざ持って来るんですよ、厳選された良い木ばかりなんです、ノエルの間中ずっとぴかぴかしたままですからね。客人は主人の話に頷きながらも嗅覚を研ぎすまし、立ち並ぶモミの木の間を迷路のように迂回する。すると、ふと視線の先にひと際美しい一本が輝いているのが見える。左右に良く張った枝は完璧なシンメトリー、多勢の中に在っても視線を引きつけずにはいられない、すでにソロの風格を持った立ち姿とでも言おうか。彼は吸い寄せられるようにその一本の方へ歩いて行く。それは一目惚れのようなものだろう。(やれやれ、やっと決めてくれたよ)と内心ほっとしながらも「ムッシュー(マダム)は、お目が高い!」と言う時の店の主人の満面の笑顔。双方話しがまとまれば後は早い。革財布をとり出し支払いを済ませ「選ばれたモミの木」は白い網袋にくるくる大事に覆われて、それぞれのノエルの舞台へ向かうだけだ。そこは立派なホテル・パティキュリエール(個人邸宅)の大広間もしれないし、暖炉の火がパチパチ燃えるどこかの暖かい家庭かもしれない。子供たちが眼を輝かせて見上げるノエルの演目会のホールや、街の人が思わず立ち止まって振り返るミサの準備をする教会の庭かもしれない。パリのアパルトマンの多くは十二月になると共同のエントランスにツリーとサントス(陶器で出来た聖人の小さな人形)を飾って住人を迎える。自分の部屋にツリーを飾る余裕のないシングルも、毎晩入り口で大きなツリーが出迎えてくれるのは事のほか嬉しい。アパルトマンの窓から覗くさまざまに趣向を凝らし美しく飾られたツリーは、暗くなると完璧にノエルの街景色の一部となる。それはクリスマスキャロル、賢者の贈り物、ナット・クラッカー(くるみ割り人形)etc. ディケンズやオー・ヘンリーのあの世界、あの場面。誰もが知らず物語の世界に入ってしまうのがこの季節のマジックで、ツリー(モミの木)はそのもっとも重要な役者の一人に違いなかった。それが、どうして大型ゴミですって??

 知人のフランス人の家ではノエルが終わると丁寧にモミの木の枝を折り、暖炉で燃やしてそのまま冬場の暖房の燃料にする。実に正しい(心ある)処分の仕方だと思う。しかし最近は煙突の手入れが大変だからと在るのは形だけで、暖炉の空気孔そのものを閉じてしまうところも多い。なのでパリ市は不要になったモミの木を持って行けばその場でリサイクルしてくれる集積所も作った。結局処分するには変わりなくても、美意識と気持ちの問題だろう。ひと月立てばただの大型ゴミ、道ばたにポイのあの姿は余りに悲しい。

 少し前のことだ、パリに遊びに来た友人と十五年ぶりくらいの再会をし、彼女の滞在先ホテルで明け方まで話し込んでしまった。幸いホテルから家まで近かったので、外はまだ暗かったが歩いて帰った。パリの街はまだ眠っている。人気(ひとけ)も車もない。すると何処からか静かなエンジンのモーター音が聞こえて来て、振り返るとパリ市のゴミ回収清掃車だった。パタン、カタン、ウィーンと規則的にくり返される作業音、緑のユニフォームに身を包んだ清掃員たちはダンスでも舞うように軽やかに車から飛び降りては歩道のゴミを次々回収して行く。朝靄の立ち込めるオレンジ色の街灯の中で見たその光景はとてもポエティックだった。

(文/写真 河村真奈)


河村 真奈

河村 真奈

[ Mana Kawamura ]
多摩美術大学油画・版画専攻卒業後、1992年に渡仏。レンブラント、ゴッホ、印象派の研究で知られる美術史家パスカル・ボナフ氏に師事し、パリ第八大学で博士号前課程DEAを取得。その間ヨーロッパでの生活経験をもとに、旅、美術、食文化などをテーマにした紀行文やフォトエッセイを発表する。2005年日本旅行作家協会主催エッセイ大賞受賞。パリでは日仏児童を対象にした《日本語よみきかせのアトリエ》や美術とフランス語に親しむ文化講座を主催している。2013年よりブリュッケ(翠波画廊)パリスタッフとしても活躍、フランスからアート情報を届けている。

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