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医学博士 河内文雄氏のコラム

Vol.1 絵の持つ力

 情報の85%は目から入ります(視覚)。10%が耳から(聴覚)で、残りの5%を嗅覚、味覚、触覚で分かち合うことになります。コックさんがふて腐れそうな結果ですね^^
これはまた、人間の心に訴えかけるには、目に見える形で提示するのが一番効率的であるということを示しています。さらに、われわれは普段、自分にとって好ましい人や物を思い浮かべるとき、無意識のうちに水平よりも8度下の正面にその像を心の中で描きます。これを eight degree’s row と言いますが、これらの心理学的な事実は、ショーウィンドウの中の商品の見せ方に応用されています。今度皆さまもお暇な折に、デパートのショーウィンドウをご覧になったらいかがでしょうか?きっと見せ方のプロの技を再発見されることでしょう。しばらくすると翠波画廊の絵の配置も変わっているかもしれません(笑)

 room_shokai_1_1285%の視覚情報を上手に使えば、人の心に心地よさを呼び覚ますこともできます。絵画というのは画家の美的イメージの表出ですから、それを鑑賞する人と画家の心的周波数が共鳴しあうと、脳の中のA1神経からβエンドルフィンという脳内麻薬が分泌され、人は快感を覚えます。
 私はかねてより美術館の中に診察室があるようなクリニックを作りたいと思っていました。少しずつ理想に近づきつつありますが、その過程でいくつかの発見がありました。飾ってあるそれぞれの絵に、いつしかファンができていたのです。
 ずっと同じ絵ばかりでは飽きるのではないかと思って展示替えをすると、必ず、この前ここにあった絵はどうしたか、と尋ねられます。半年したらまた飾りますよと言うと、わしゃそれまで持たぬと息を切らせて見せます。そういう人に限ってあと20回くらい見るのですよと言うと、うれしそうにホッホッホと笑いながら帰っていかれました。こうしたやり取りができるのも絵の持つ力なのだと思います。
 もう一つの発見は、本物だけが持つ凄み、ともいうべきものでした。絵を飾っている医療機関は多いですが、けっしてそれほどレベルの高いものを飾っているわけではありません。それでも当院は意図的に本物をシステミックに展示しました。まず火が付いたのは、絵のことなどわかるはずのない、院内を走り回る悪ガキどもでした。下手をするとこの子達は、そのうちにいたずら書きを始めるのではないかと思って気を付け見ていたら、すげえすげえと感動しています。大事なものだと分かるらしく触ろうともしません。大人たちが絵を話題にする前に、彼らは絵に圧倒されていました。私はこういうのも価値を見抜く力というのかなと思いました。

 よく音楽が人を感動させると言いますが、10%の聴覚で出来ること以上の効果を、85%の視覚、すなわち美術は発揮することができるはずなのに、なぜそれがあまり話題になることがないのでしょう?私は個人的に、それは量の問題ではないかと考えています。誰だって10秒や20秒の音楽を聴いただけでは感動しませんよね。同じように1~2枚の絵を見ただけではまだ、脳内麻薬は賦活されないのではないでしょうか。医療機関で絵を飾っているところはたくさんありますが、美術館の展覧会や画廊の個展のように、同じ画家の絵を何枚も飾っているところはあまりありません。そこで当院では意識的に個展のような雰囲気を演出しました。逆にそれができるようにとシリーズ化していく作業はとても楽しいものです。
 ゆくゆくはこの流れでプティミュゼをオープンしたいと思っています。多文化発信型ギャラリーカフェといったところでしょうか、夢は膨らみます。

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河内 文雄

医療法人社団以仁会理事長・医学博士 千葉大学医学部臨床教授

河内 文雄 [ Fumio Kouchi ]

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